BL小説短編集

相沢蒼依

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シェイクのリズムに恋の音色を奏でて❤

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***

 普段はしない俺からの声かけに、聖哉はなにかを察したのか、珍しく空いてるカウンター席に座って、美味しそうに俺が作ったノンアルカクテルを口にする。

 その様子を一人分空いた席から、サオリさんがじーっと眺めていた。

「石崎さん、今夜のカクテルはこの間作ってくれたオレンジベースのものと、少しだけ味が違うんですね。酸味が強いけど、そこまで酸っぱくないのに、爽やかさを感じます」

「おっ、よく気づいたのな。隠し味にミントが入ってるんだ」

「わかりますよ、そりゃ。毎晩飲んでるし」

 嬉しそうに言いながら、カクテルグラスを意味なく回す聖哉。傍から見たら、照れているように見える。

「聖哉、ノンアルなのに、なんで頬を赤らめてるんだ?」

 まったく顔色を変えていなかったが、わざとそうなるように指摘してみる。

「へっ?」

「ほら、頬が熱い」

 話しかけながら、ふっくらした頬に触れた途端に、ぶわっと体温が上がったのが指先に伝わった。作戦成功である。

「誰のせいですか、もう!」

「悪かったって、怒るなよ。次の休憩のときは新作を試させてやるから、機嫌直してくれ」

 その後もテンポよく聖哉と会話を続けていたら、サオリさんが腰をあげてカウンター席から降り立つ。

「智之さん帰るわ。お勘定お願い」

 俺たちの会話の邪魔をするようにいきなり割り込み、お金を置いてさっさと店を出て行く後ろ姿に一応「ありがとうございました」と付け加え、聖哉は無言で見送った。

「……彼女、また来るでしょうか?」

 サオリさんが出て行ってから、一息つくように、ノンアルカクテルに口をつけた聖哉がポツリと零す。

「わからない。昨日のアレを見て今夜来るとは、思いもしなかったし」

「僕も驚きました。まるで、確かめに来た感じでしたよね?」

 ため息をつきつつ、眉根を寄せる聖哉の面持ちを目の当たりにして、内心ドキッとした。

(本人わかっていないようだが、随分と色っぽい顔をしてる)

「ああ。正直、公衆の面前で仲の良さを見せつけるのは、結構気を遣うからな。さじ加減が難しい」

「ほかのお客様の目もありますしね。当然ですよ、それは」

 胸のドキドキを悟られないように平静を装うと、聖哉はグラスに残ったカクテルを一気飲みし、両手首をぶらぶら揺らしながら椅子から降りる。

「面倒なことに巻き込んで、ホント悪いな」

「使える者はピアニストでも、じゃんじゃん使ってください。それがお店のためになるなら、僕は嬉しいです」

 聖哉は満面の笑みで答えてくれたのだが、俺としては心中複雑だった。

 恋人として付き合いたい気持ちの俺と、今の関係を維持したい聖哉。相容れない俺たちの想いは、いったいどこに向かうのだろうか。
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