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シェイクのリズムに恋の音色を奏でて❤
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「聖哉……」
恋人つなぎした手を引っ張りながら、聖哉の自宅に向けて歩く俺の隣で、困惑の表情を浮かべた聖哉が、恐るおそる顔をあげる。
「石崎さん、僕は守りたかったんです。あの場所を……。それは絵里さんや華代さんも同じ気持ちでいるんですよ」
「その気持ちはすごく嬉しいが、あの女にゲイばれして、聖哉は平気なのか?」
「あのお客様が恋愛対象にならないとわかれば、すんなり諦めてくれるかもって考えた上での行動でした。だから自分がゲイだとバレたときのことなんて、全然考えてなくて」
「突っ走りすぎだろ、それは……」
そういえばコイツは、苛立った気持ちをぶつけるように、街中に置いてあったピアノで発散するような単純な人間だったことを、今さらながらに思い出した。
「僕は後先考えずにいつも行動しちゃって、あとから後悔しちゃうんです」
(――そんなおまえを俺は守りたいって言ったら、絶対に迷惑がるだろうな)
「だが今回は、それがいい結果に繋がったと思う。サンキューな」
つないだ手をぶらぶらさせながらお礼を言ってみたら、聖哉はあげていた顔を慌てて俯かせて、小さな声で「はい」と言った。ちょっとしたそういう仕草がかわいくて、つい眺めてしまう。
「こうして聖哉と帰る期限、一応決めておこうと思うんだけど」
サオリさんがすぐに諦めて店に顔を出さなくなったのなら、聖哉としてはさっさと解消したいだろうと思い、自分から提案した。
「お客様次第ですよね、それは」
「ああ、そうなんだけどさ。俺はこうして帰れることはラッキーになるが、聖哉は嫌だろ? 不用意に、俺に触れられたくないだろうし」
聖哉が嫌がるであろう行為を口にしてみると、隣で力なくふるふると首を横に振られた。
「僕は石崎さんに触れられても、別に嫌悪感を抱いたりしません。僕に触れることが不純な動機なら、僕自身にだって不純な動機があります」
俯いたまま告げられたセリフだったが、いつもより口調に熱を感じた。
「聖哉の不純な動機って、なんだよそれは?」
「石崎さんのお店で、思う存分にピアノを弾くことです」
もたげていた首をあげ、俺の目を見ながら告げられた言葉に、きょとんとするしかない。
「僕がピアノを弾くとき、いつも譜面の指示や教えてくださった先生のセリフが頭を過って、うまく弾くことができないんです」
「それは聞いてるだけでも、つまらなそうな感じがする」
率直な感想を口にしたら、聖哉はくすくす笑った。
「弾いてる僕は、もっとつまらないですよ。気を遣いながらそれを感じさせないように、ピアノを弾かなければならないですから」
嫌悪感を抱かないと言った聖哉の言葉を信じ、つないでいる手を持ちあげて、甲にキスを落とした。
「俺の店では、なにも考えずに、この手で楽しくピアノを弾いているんだな」
恋人つなぎした手を引っ張りながら、聖哉の自宅に向けて歩く俺の隣で、困惑の表情を浮かべた聖哉が、恐るおそる顔をあげる。
「石崎さん、僕は守りたかったんです。あの場所を……。それは絵里さんや華代さんも同じ気持ちでいるんですよ」
「その気持ちはすごく嬉しいが、あの女にゲイばれして、聖哉は平気なのか?」
「あのお客様が恋愛対象にならないとわかれば、すんなり諦めてくれるかもって考えた上での行動でした。だから自分がゲイだとバレたときのことなんて、全然考えてなくて」
「突っ走りすぎだろ、それは……」
そういえばコイツは、苛立った気持ちをぶつけるように、街中に置いてあったピアノで発散するような単純な人間だったことを、今さらながらに思い出した。
「僕は後先考えずにいつも行動しちゃって、あとから後悔しちゃうんです」
(――そんなおまえを俺は守りたいって言ったら、絶対に迷惑がるだろうな)
「だが今回は、それがいい結果に繋がったと思う。サンキューな」
つないだ手をぶらぶらさせながらお礼を言ってみたら、聖哉はあげていた顔を慌てて俯かせて、小さな声で「はい」と言った。ちょっとしたそういう仕草がかわいくて、つい眺めてしまう。
「こうして聖哉と帰る期限、一応決めておこうと思うんだけど」
サオリさんがすぐに諦めて店に顔を出さなくなったのなら、聖哉としてはさっさと解消したいだろうと思い、自分から提案した。
「お客様次第ですよね、それは」
「ああ、そうなんだけどさ。俺はこうして帰れることはラッキーになるが、聖哉は嫌だろ? 不用意に、俺に触れられたくないだろうし」
聖哉が嫌がるであろう行為を口にしてみると、隣で力なくふるふると首を横に振られた。
「僕は石崎さんに触れられても、別に嫌悪感を抱いたりしません。僕に触れることが不純な動機なら、僕自身にだって不純な動機があります」
俯いたまま告げられたセリフだったが、いつもより口調に熱を感じた。
「聖哉の不純な動機って、なんだよそれは?」
「石崎さんのお店で、思う存分にピアノを弾くことです」
もたげていた首をあげ、俺の目を見ながら告げられた言葉に、きょとんとするしかない。
「僕がピアノを弾くとき、いつも譜面の指示や教えてくださった先生のセリフが頭を過って、うまく弾くことができないんです」
「それは聞いてるだけでも、つまらなそうな感じがする」
率直な感想を口にしたら、聖哉はくすくす笑った。
「弾いてる僕は、もっとつまらないですよ。気を遣いながらそれを感じさせないように、ピアノを弾かなければならないですから」
嫌悪感を抱かないと言った聖哉の言葉を信じ、つないでいる手を持ちあげて、甲にキスを落とした。
「俺の店では、なにも考えずに、この手で楽しくピアノを弾いているんだな」
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