BL小説短編集

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
312 / 329
シェイクのリズムに恋の音色を奏でて❤

19

しおりを挟む
***

「サオリさん、閉店時間ですのでお引き取りを」

 いつまでもダラダラしている厄介な客に声をかけて、帰るように促した。

 今夜は男性客が多かったことで店でのトラブルがなかったのと、以前勤めていたバーの客である絵里さんと華代さんが目を光らせていたからか、彼女はワガママを駆使することなく、あっけなく帰ってくれた。

「マスター、私たちも帰るわね。なにか困ったことがあったら、遠慮なく言って」

「前の店のように、雰囲気が悪くなるのが嫌だから。ここは私たちの憩いの場でもあるんだし、なにかあれば常連として、あのコにきっちり注意してやるわ」

 華代さんがお会計をしながら心配そうな表情を浮かべて、俺に話しかけた。それに乗っかって、絵里さんは俺の肩をバシバシ叩き、気合いを入れてくれる。

「いつもありがとうございます。心強い味方がいるだけで頑張れますよ」

 絵里さんと華代さんはただのお客様。彼女たちが間に入ることで、厄介な客が手を出す恐れがある。だから、頼ってばかりいられないのが現実だ。それに前の店で、変な客に対応するオーナーの処理の仕方を垣間見ているので、それを使わせてもらうのもひとつの手だった。

 最後のお客様を送り出し、クローズ作業をしてる間に、聖哉が店内の戸締りや掃除をしてくれるおかげで、最近早く帰れるようになっていた。

 お互いやっていることを終えて、いつも一緒に帰っていたのだが。

「聖哉、その掃除が終わったら帰っていいぞ」

「わかりました」

 一緒に帰れないので、先に帰るように声をかけたというのに、聖哉はなぜか細かいところの掃除をはじめる。そんなことしなくていいと言えればいいのに、こうしてふたりきりでいられることがどうにも嬉しくて、俺の言葉をとめた。

 売り上げの計算を終えて、金庫に貴重品をしまい、店から出る準備をしたら、聖哉はやっと帰り支度をはじめた。まるで俺の行動に合わせているような感じに、見えなくもない。

「帰るぞ、早く出ろ」

「はい。今行きます」

 自分の荷物を手にした聖哉が走って俺に追いつき、先に店を出る。そのあとを追いかけるように俺も出て、扉の鍵をしっかりかけた。その様子を背後から見つめる聖哉に挨拶しようと振り返ったら、彼は真横をじっと見つめていた。

 そのまま視線の先を追って、くっと息を飲む。

「サオリさん……」

 帰ったと思った厄介な客が、出待ちしていた事実に心底落胆する。

「智之さんと一緒に帰ろうと思って、ここで待っていたの」

(くそっ、やっぱりめんどくさいことになりやがった……)

 なんて言って断ろうかと頭を悩ませていたら、俺の前に聖哉が立ちはだかった。それは傍から見た感じ、彼女から俺を守るようにも見える。

「聖哉?」

「お客様、大変申し訳ございません。石崎さんはこれから僕と帰るので、ご一緒することはできません」

 きっぱり言いきったと思ったら、俺の腕に自分の腕を絡めた。それを見た彼女は、眉根を寄せながら近づいてくる。

「どういうことかしら?」

「僕ら、付き合ってるんです」

 俺よりも背が低くて体も華奢な聖哉が、このときだけはなぜか大きく感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...