BL小説短編集

相沢蒼依

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シェイクのリズムに恋の音色を奏でて❤

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「やらかした……」

 聖哉からの偏見を感じないことを逆手に取り、自分なりにアピールを日々繰り返した。

 少しでも彼との距離が縮まったら、もしかしたら付き合える可能性も出てくると睨み、基本お喋りじゃない俺が積極的に聖哉に話しかけたおかげで、出逢った頃よりはいい関係を築けたと思う。

 出逢いが最悪だったから、なおのことだ。

 店でピアノを奏でる彼は、お客様が居心地よく過ごせるように弾いてるゆえに、みんなのものって感じ。

 だが店を閉めて並んで歩く帰り道は、聖哉を独占した気分だった。だから余計に嬉しかったし、しあわせを感じることができた。

 並んで歩いていると、時折肩が少しだけ触れたり、手の甲同士が触れそうで触れないギリギリのところを見て、妙にドキドキしたり。久しぶりに恋してることを、まざまざと実感させられた。

 そんなある日、一緒に帰りながら俺の話が途切れたとき、聖哉が斜め上にある三日月を眺めた。ピアノを弾くときや、困ったことがあるとすぐに俯く彼が、背筋を伸ばしながら空を眺める姿は凛としていて、綺麗という言葉がすごく似合ってた。

 それに惹き寄せられるように顔を近づけてキスしてしまったのは、理性が吹っ飛んだとかじゃなく、自然にキスしてしまった感じだった。

 苦しそうに胸元を押さえて、目の前から消えてしまった聖哉のあとを追うことなんて、当然できるわけもなく、自らがやらかした行為をひたすら反省するしかなかった。

「もう聖哉は、店に現れないかもしれない――」

 見た目以上に柔らかさのあった聖哉の唇を思い出すように、自分の唇を噛みしめる。

「あーもう、なにやってんだよ俺!」

 真ん中分けしている前髪を両手で掻きむしったところで、後の祭り。自分の手で恋に終止符を打ったと絶望した次の日。

「こんばんは……」

 いつもよりおどおどした聖哉が、店に現れたのである。夢かと思った。絶対に店に来ないと思っていたから、彼の姿が幻なんじゃないかと自分の目を疑った。

「聖哉!」

 開店前で時間があるからこそ、俺は持っていたふきんをぶん投げて、急いでカウンターから飛び出し、聖哉の前で頭を深く下げた。

「昨日は本当に悪かった! 謝ったところで昨日のことが消えるわけじゃないが、本当に済まなかった!」

「僕にも、隙があったのがいけないと思うんです。だからもう忘れましょう?」

「でも……」

 頭をさげたままの俺に、聖哉はいつもどおりの口調で話しかける。

「それと、これからは送らなくていいですから。ひとりで帰ります」

「わかった」

 店を出たら、背中合わせで帰ることになる。それはとても寂しいが、自分がしでかしたことが原因なので、了承するしかなかった。

「今夜はいつもと違った曲を弾こうと思って、少しだけ早く来ちゃったんです。練習してもいいですよね?」

 恐るおそる頭をあげた俺の目の前を、空気をちょっとだけ揺らすように歩いてピアノに近づいた聖哉。俺から逃げる感じじゃないことに、内心かなりほっとしたのだった。
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