ＢＬ小説短編集

シェイクのリズムに恋の音色を奏でて❤

７

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　嫌々お店に通うことになるのかなと、調律をしていたときは思った。だけど初日に僕の演奏をすごく褒めてくれた石崎さんや、お客様たちのおかげで、嫌々どころか、夜になるのが待ち遠しくなるくらい、毎晩通ってしまった。

　譜面の指示を気にせずに、のびのびと演奏することのできる環境――ストレスを感じずにピアノと向かい合えるのは、とても楽しくてならない。

「聖哉お疲れ、少し休憩すれよ」

　あまりに楽しくて時間を忘れ、ずっと弾き続けてしまうときもあり、こうして石崎さんが声をかけてくれる。

「ありがとうございます」

「はい、聖哉用のノンアルカクテル」

　僕がお酒を飲めないことを知ったら、石崎さんは毎回ノンアルコールでカクテルを作ってくれる。しかも違うものを作ってくれるのだが、ジュースとは違って甘さが控えめなそれは、すごく美味しかった。

　色もピンク色やスカイブルー、明るい緑など、味とマッチしていて、飲むだけじゃなく、目にも優しい。

（このお店にお客様が通ってしまう理由が、わかる気がする――）

　彼が僕に豪語したセリフ『客からオーダーされたカクテルを作るときは、その客の口角があがるようなものを提供しなければと、真心を込めて作る』を実行しているのを、身をもって知ったからこそ、僕もそれに応えたいと思った。

「僕の拙いピアノが石崎さんの役に立つなら、ずっと弾いてあげたい」

　スッキリとしたミントを感じさせるノンアルカクテルを飲みながら、店内の様子を窺った。

　シェーカーを振ってる石崎さんに、カウンターにいる男性客がにこやかに喋りかけていて、少しだけ盛りあがっている。ボックス席には、男女のカップルが仲睦まじいそうに顔を寄せて談笑中。奥のボックス席も女性客が三人でスマホを片手にクスクス笑っている。

　さて、こんな状況下では、どんなピアノ曲が似合うであろうか。

　お洒落なグラスの中に入ってるカクテルを一気に飲み干し、「ご馳走様でした」とお礼を言って石崎さんに返した。

「聖哉、もう少し休憩してもいいんだぞ？」

「石崎さんの作ってくれるカクテルのおかげで、十二分に休憩させてもらいました。大丈夫です」

「そ、そうか。それならよかった」

　元気なのを示すために、右腕に力こぶを作ってみせたら「おまえには似合わねぇなぁ」なんて、呆れられてしまった。だけど表情がさっきよりも明るくなったので、僕の作戦としてはバッチリだった。

（疲れているのは僕よりも、石崎さんのほうなのにな。人のお節介ばかりするんだから）

　疲れた彼が少しでも癒されるようにと、静かな曲調のクラシックを弾いてあげたのだった。