BL小説短編集

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
298 / 329
シェイクのリズムに恋の音色を奏でて❤

しおりを挟む
***

 店内に響く柔らかいピアノの音色と、カクテルをシェークする音が合わさり、絶妙な雰囲気を醸した。ピアノひとつで、こんなに店の様子がグレードアップするなんて、想像以上だった。

「ちょっとマスター、いつからピアノを弾く人を雇ったの? お店、めちゃくちゃいい感じ!」

「ほんとほんと。しかもピアニストの彼、結構イケメンじゃない。女性受けを狙って、彼を雇ったりして?」

 彼女たち絵里さんと華代さんは、俺が修行先のバーのお客様だった。新しく店を構えることを知ったら応援すると言って、ずっとここに通ってくれている、とても熱心な太客。俺の作るカクテルを気に入ったのも、追いかけてきてくれた理由のひとつだそうだ。

「絵里さんと華代さんが最近仕事が忙しくて、店に顔を出してくれなかったから、寂しくなって彼を雇ってしまったんです」

 するとショートカットで快活な絵里さんが、頬杖をつきながら、ダルそうに答える。

「しょうがないでしょ。疲れきってるせいで貴重な休みが、寝て過ごす日になっちゃうんだもん」

「看護師は体力勝負だもんね。私は彼氏とウフフだけど♡」

 絵里さんとはタイプが真逆の華代さんは普通のOLで、私生活は充実しているらしく、彼氏の話をよく聞いたし、店にも一緒に顔を出していた。

「ハナ、今回の彼氏は街コンでゲットしたんだっけ?」

「絵里も一緒に、参加したらよかったのに。優良物件結構いたよ」

「今はなんか、恋愛するモードじゃないんだよね。周りがさ、不倫だの略奪愛だの嫌な感じのトラブルを、延々と見せつけられてるせいで。ちょっと聞いてくれる?」

 ゲンナリするような会話が目の前で繰り広げられても、BGMで流れるジャズピアノが耳に優しく聞こえるおかげで、俺の気分を損ねることはなかった。

(――やっぱり、聖哉のピアノはすげぇな。癒し効果ありまくりだろ)

 熱心に会話を続けるふたりから離れ、洗い物に手をつけ始めたタイミングだった。ボックス席でパソコンを広げていた中年男性が不意に立ち上がり、聖哉のもとに近づく。

 洗い物をしながら、彼らの様子を目の端に捉えた。ちょっかいだそうものなら、すぐに割って入らなければならない。

「素敵な演奏だね」

 中年男性はピアノを弾いている聖哉に、平然と話しかけた。演奏する手を止めずに淡々とした口調で「ありがとうございます」と返事をする聖哉を見つめてから、カウンターにいる俺に視線を飛ばす。

「マスター、私の驕りで、素敵な演奏を奏でる彼に、なにか作ってあげてくれないかい?」

 中年男性のセリフで、聖哉はやっと演奏する両手をとめた。表情が困惑に満ち溢れていて、どうしたらいいのかわからないのが伝わってくる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

処理中です...