BL小説短編集

相沢蒼依

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新たなる挑戦

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 大学生のとき、友人だと思っていた同性から好きだと告白された。好きの意味が恋愛感情だというのは理解できたものの、それ以上の感情で友人を見ていなかったため、困惑しながら断った。

 それでも友人は俺のことを諦めずに、何度も告白を繰り返した。結局そのしつこさに根負けして、付き合うことにした。

 同性とのはじめての付き合いは、異性との交際に比べて楽しかった。友達よりも親密な関係になることに最初は戸惑いもあったのに、それを吹き飛ばしてしまったのは、友人が俺のことを心から愛してくれたからだろう。

 その想いに報いようと、俺も友人を愛した。その結果、束縛する気持ちが芽生えはじめ、友人の友達付き合いを狭める言動が増えてしまった。そのことに耐えられなくなった友人は、ほどなくして俺に別れを告げた。

 そんな自業自得を払拭すべく自分の好きなことに没頭しようと、お金を貯めて中古車を手に入れ、峠を走ることに喜びを見出した。

 そこで新たな友人に恵まれ、走りにより一層磨きがかかった。

 だけど楽しかったのは最初だけだった。気がつけば俺の走りについていける者がいなくなり、『白銀の流星』という二つ名がつけられ、友人たちとの距離をあけるものになってしまった。

 そんなつまらない毎日を変えてくれたのは、峠で休憩しているデコトラの運転手だった。

 普段見慣れないトラックに惹かれてそばに駆け寄り、年配のドライバーに話しかけた。

 トラックに興味のあることを告げると、デコトラから受ける見た目の悪さで最近はなかなか仕事がないことや、ある程度の年齢になったら躰にガタがきて、荷物の搬入をするのもつらい仕事だということと一緒に、大変な境遇だけど楽しく仕事を続けている現実を、年配のドライバーは丁寧に教えてくれた。俺の耳に語られるものすべてが新鮮に聞こえた。

「おじさんの後継者になりたい!」と思いきって告げたのに、年配のドライバーは笑ってやり過ごした。

 数か月後ふたたび峠で休憩しているデコトラに、勇んで話しかけに行った。

「おじさん俺、大型自動車の免許を取った。いつでもこのデコトラを運転できるよ」

 俺の情熱に押された年配のドライバーは、助手席に乗せて仕事を渋々教えてくれた。

 この頃は会社員として働いていたが、仕事の両立をするにはやはりキツいこともあり、一般企業をすっぱり辞めてデコトラの仕事だけに集中した。するとそこから本格的な指導に変わり、身を入れてハンドルを握りしめながら仕事ができた。

 そして年配のドライバーが引退するにあたり、愛車をを手放した代金と引き換えにデコトラを手に入れた。

 今の彼に出逢ったのは、デコトラの仕事が慣れてきた頃だった。忙しさのせいで疲れがたまり、眠気を感じながらハンドルを握りしめていた俺に、黒塗りのハイヤーが激しくクラクションを鳴らした。けたたましいその音で、自分がふらつきながら運転していることにやっと気づく。

 停車帯にデコトラを停めると、黒塗りのハイヤーが後ろに停車した。間を置かずにドライバーがやってきたので、迷うことなく頭を下げながら話しかける。

「すみません……。あと少しで仕事が終わると思ったら、気が緩んでしまったようで」

「気が緩んだだと!? ふざけんなよ、このクソガキ!」

 目を吊り上げて俺を叱る見ず知らずのドライバーに、このときは思いっきり面食らった。両親にもここまで叱られたことがなかったので、恐縮しまくりだった。しかも叱っただけじゃなく仕事についてのアドバイスを受けたあとに、眠気覚ましにエナジードリンクまで差し入れされてしまったのである。

「じゃあな、頑張れよ」

 優しさに溢れる言動を目の当たりにして、黒塗りのハイヤーのドライバー橋本に恋をするのは、今考えると必然だった。
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