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抗えない想いを胸に秘めたまま、おまえの傍にずっといたい
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「お願いです。なにもわからないまま、先輩とお別れしたくありません……」
ベニーが涙声になりかけたのを聞いて、俺の考えに迷いが生じた。コイツの泣き顔を、これ以上どうしても見たくはなかった。今まで流したベニーの涙のほどんどが、悲しみを伴うものだったから。
(できることならベニーの笑ってる顔を見て、この世から消えたいというのにな。これからする話では、それを見ることができないだろ……)
俺は一旦口を引き結んでから、違う意味で高鳴る胸を落ち着けるように、深呼吸を数回した。それから重たい口を開く。
「実のところ……異世界に転移することは、余程の理由がない限り、上の規律で駄目なことになってる」
「それでも私たちは、3回も転移しました」
「俺は無駄に長く生きてる。その生命の長さを元手に、異世界転移に対する懲罰の帳消しを頼んだ」
自分の感情を押し殺した俺の言葉に、ベニーの顔色がどんどん曇ったものになる。
「なんてことを……。だってそれは、私の我儘からはじまったことなのに」
「ベニーちゃんだけじゃなくて、俺の我儘も含まれてるんだ。最初の2回がそれでさ。弘泰がどこにいるのか、最初からわかってた」
「どうして、そんな無駄なことをしたんですか?」
ベニーは声を荒げながら、俺に向かって噛みついた。それは想定内のことだった。きっと自分のために、俺が嘘をついているのではないかと考えついたのだろう。
「ベニーちゃんの容姿や想いの強さを考えたら、弘泰とすぐに両想いになるのがわかる。そうなったら俺は、おまえの傍にいられなくなる。ベニーちゃんと離れたくないことは、俺の我儘だろ?」
「ローランド……」
俺の肩に置いてる両手を、ベニーは力なく外した。痛みを感じるくらいに掴まれていたので、まだ触れられていると錯覚できた。しかし、温もりまでは誤魔化すことができない。
「ベニーちゃんの口から俺の名前が呼ばれるの、なんか変な感じ」
おどけてみせても、なおもベニーの顔を見ることができなかった。
「……いつからなんですか、先輩が離れたくないと思うようになったのは」
離れたくないと告げてしまったせいで、ベニーに対する気持ちがどんどん溢れ出てくるのを感じた。胸の中からじわじわ漏れ出るそれを、見えないなにかで蓋をしようと必死になる。
「ベニーちゃんが想像するような感情じゃない。なんて言うかな、親心みたいな感じ。赤ん坊の頃から知ってるんだから、そう思って当然じゃね?」
肩を竦めながら告げられた俺のセリフを、ベニーはどんな思いで聞いただろうか。そんなことを考えながら、こみ上げてくる好きという気持ちを、ぐっと飲み込むのが精いっぱいで、これ以上の言葉が出てこなかった。
俺の想いはなんとしてでも、隠さなければならないというのに――。
ベニーが涙声になりかけたのを聞いて、俺の考えに迷いが生じた。コイツの泣き顔を、これ以上どうしても見たくはなかった。今まで流したベニーの涙のほどんどが、悲しみを伴うものだったから。
(できることならベニーの笑ってる顔を見て、この世から消えたいというのにな。これからする話では、それを見ることができないだろ……)
俺は一旦口を引き結んでから、違う意味で高鳴る胸を落ち着けるように、深呼吸を数回した。それから重たい口を開く。
「実のところ……異世界に転移することは、余程の理由がない限り、上の規律で駄目なことになってる」
「それでも私たちは、3回も転移しました」
「俺は無駄に長く生きてる。その生命の長さを元手に、異世界転移に対する懲罰の帳消しを頼んだ」
自分の感情を押し殺した俺の言葉に、ベニーの顔色がどんどん曇ったものになる。
「なんてことを……。だってそれは、私の我儘からはじまったことなのに」
「ベニーちゃんだけじゃなくて、俺の我儘も含まれてるんだ。最初の2回がそれでさ。弘泰がどこにいるのか、最初からわかってた」
「どうして、そんな無駄なことをしたんですか?」
ベニーは声を荒げながら、俺に向かって噛みついた。それは想定内のことだった。きっと自分のために、俺が嘘をついているのではないかと考えついたのだろう。
「ベニーちゃんの容姿や想いの強さを考えたら、弘泰とすぐに両想いになるのがわかる。そうなったら俺は、おまえの傍にいられなくなる。ベニーちゃんと離れたくないことは、俺の我儘だろ?」
「ローランド……」
俺の肩に置いてる両手を、ベニーは力なく外した。痛みを感じるくらいに掴まれていたので、まだ触れられていると錯覚できた。しかし、温もりまでは誤魔化すことができない。
「ベニーちゃんの口から俺の名前が呼ばれるの、なんか変な感じ」
おどけてみせても、なおもベニーの顔を見ることができなかった。
「……いつからなんですか、先輩が離れたくないと思うようになったのは」
離れたくないと告げてしまったせいで、ベニーに対する気持ちがどんどん溢れ出てくるのを感じた。胸の中からじわじわ漏れ出るそれを、見えないなにかで蓋をしようと必死になる。
「ベニーちゃんが想像するような感情じゃない。なんて言うかな、親心みたいな感じ。赤ん坊の頃から知ってるんだから、そう思って当然じゃね?」
肩を竦めながら告げられた俺のセリフを、ベニーはどんな思いで聞いただろうか。そんなことを考えながら、こみ上げてくる好きという気持ちを、ぐっと飲み込むのが精いっぱいで、これ以上の言葉が出てこなかった。
俺の想いはなんとしてでも、隠さなければならないというのに――。
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