BL小説短編集

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
269 / 329
抗えない想いを胸に秘めたまま、おまえの傍にずっといたい

しおりを挟む
***

 いろいろやらかした諸事情により、俺がこの世から消失する日、ベニーが先に学校の屋上に到着していた。複雑な心境を抱えながら、見慣れた細い背中に思いきって声をかける。

「ベニーちゃん、おはよ!」

 素早く小走りで近づいて、ベニーの髪を束ねている赤い紐を引っ張り、強引に解いてやった。自由になった白金髪がキラキラ瞬きながら、白衣の外を覆う。

 振り返って俺を見つめるベニーの視線は、ぐさぐさ突き刺さるもので、その場に流れる嫌な空気を一掃しようと、手にした赤い紐をくるくる振り回してみせた。

「先輩……」

 中性的で綺麗な容姿を目の当たりにして、苦しいくらいに胸が高鳴る。そのことを隠すべく、シャツの胸元を押さえながら口を開いた。

「弘泰と両想いになったんだから、いい加減にその長い髪を切れって。きっとカッコイイと思うぞ」

 切ったら切ったで甘いマスクが強調されて、今以上に生徒たちにモテるかもしれない。

「事後処理は終わったのでしょうか?」

 ベニーは煩わしげに長い髪を掻きあげながら、俺が強請ったことを完全無視し、いきなり核心に迫った。

「弘泰パパから、どこまで聞いたんだ?」

「なにも教えてはもらえませんでした。聞きたいことは、先輩に直接聞くように言われて」

「チッ、頭の固いヤツ。言伝を頼んだのに」

 俺は面白くなさそうに眉根を寄せてベニーの隣に並び、注がれる視線をやり過ごすように、柵の外を眺める。

「どういった言伝ですか?」

 いつもより声色の固いベニーの様子で、余計に顔が見られなくなった。

「俺がいなくなる代わりに、弘泰パパがベニーちゃんの見守り人を請け負うことになった。どうせ両想いになったんだから、一緒に見守ってもらってもかまわないだろ」

 前を見据えたまま告げると、ベニーは間髪入れずに問いかける。

「私の監視を辞めて、先輩はどこに行くというのです?」

「…………」

 手にしたベニーの赤い紐を強く握りしめて、胸に秘めた想いをなんとか隠した。

(――このタイミングで告げたら、コイツを確実に困らせる。それだけは絶対に阻止しなければ!)

 奥歯を噛み締めて、だんまりを決め込む俺の肩をベニーは掴み、自分を見るように強引に向けながら語りかける。

「ここまで一緒に、頑張ってやってきたじゃないですか! 私は必ず弘泰と添い遂げます。間接的に人を殺めてしまったから、困難はつきまとうでしょう。それでも私は――」

 絶対に顔を見ることができない――見てしまったら最後、自分の想いを告げてしまう。

 それを避けるべく、目の前の視線をあさっての方向ばかりに彷徨わせた。

「悪い。ベニーちゃんの幸せな姿、見届けることができない」

「理由を教えてください。このままでは納得できません!」

 ベニーは苛立ちを含んだ声で叫びながら、掴んでいる俺の肩を揺すって、何度も教えてくれと懇願する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...