BL小説短編集

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
237 / 329
抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい

62

しおりを挟む
「僕じゃダメですか?」

 とてもか細い声だった。それでも聞き逃さずに、ベニーはしっかりした口調で答える。

「ローランド様以上の輝きを持つ弘泰に、ダメだなんて言えるはずがありません」

「ベニー、ごめんなさい。男爵だった僕が貴方の想いに気づけずにいて」

「それもまた運命。お蔭でこうして、弘泰と出逢うことができたのです。悪いことばかりではありません」

 柔らかく微笑むベニーは弘泰の手を引っ張り、強引に起こして胸の中に抱え込む。大切なものを扱うように、優しく抱きしめた。

「だけど僕はベニーを傷つける恋をした。好きになっちゃいけない相手だとわかっていたのに、情けないくらいにのめり込んで……。挙句の果てには僕に拳銃を渡して、つらい選択をゆだねさせるなんて、本当はしちゃいけないことだと思います」

 腕の中で、つらそうに自身の過去の恋を語る弘泰のおでこに、ベニーはそっとくちづける。

「私には確信があったのです。だからあえて、拳銃をお渡ししたのですよ」

「確信?」

 ゆっくり顔をあげた弘泰を、慈愛の含んだまなざしで見つめ返した。

「私が拳銃をお渡しして、結果的にはローランド様を自殺に追い込んでしまいました。自殺することによって甦るシステムを知っている人間が、直接手を下したことは、天界にとってよくないことだったのでしょう。だから弘泰の中から前世の記憶、つまりローランド様のことがかき消されたのです」

「甦ることがわかっていたから、自殺ほう助をしたんですか?」

 ベニーは静かに頷き、黙ったまま弘泰を見下ろす。赤茶色の瞳が切なげに揺れていて、それを見ているだけで胸が苦しくなる。

「……私の我儘でございます。どうしても伯爵から、ローランド様を引き離したかった」

 今まで聞いたことのないベニーの低い声。それは言葉が心に深く刻まれる声だった。

 穴が開くような感じで、目の前にある顔を見つめる弘泰の視線から逃れるように、ベニーはまぶたを伏せてあらぬほうを見た。

「貴方の我儘は、僕にとって嬉しいものです。そんな顔をしないでください」

 告げられた瞬間、声に導かれるように逸らしていた視線を戻す。そこには喜びを頬に浮かべた弘泰が、瞳を細めてベニーを見つめていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...