BL小説短編集

相沢蒼依

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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい

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 離れる前に、明堂をぎゅっと強く抱き締めてから腰を上げ、颯爽と扉に向かう。手早くプレートをひっくり返したのちに扉を閉めて、しっかり鍵をかけた。

「さてと、弘泰。聞きたいことがあります」

 ふたたび腰かけて枕元に座ると、明堂がもそもそ起きだした。

「なんですか?」

 気だるそうな雰囲気を醸していることに、ベニーとしては違和感を覚えたが、聞いてみたかったことを口にする。

「お兄さんの件について」

「あ……」

「病気療養のために休学したと先生から聞きましたが、詳しい情報が上からおりてこなくて。元気そうだった彼が、深刻な病とは考えにくいですし」

 言い終えないうちに、明堂はベニーの片腕に縋りつき、顔を俯かせたまま説明をはじめる。

「ベニー先生に言われた言葉を、思いきって実践してみたんです」

 そのときのことを思い出したのか、縋りつく手が僅かに震えだした。

「弘泰、腕を離してください。宥めようにもこれでは、君を抱きしめられません」

「ベニー先生……」

「ふたりきりのときは、ベニーと呼んでください。私は君のものなのですから、さあ」

 飛び込みやすいように胸を広げると、迷うことなく明堂はベニーの躰に抱きついた。

「弘泰……」

 苦しいくらいに自分を抱きしめる明堂の頭を、何度も何度も優しく撫でてやる。

「僕、ベニーに言われた『抗ってみませんか』って言葉に、思いきって従ってみたんです。なけなしの勇気を出しました」

「お兄さんが、君を襲ってきたときにですか?」

「はい。頭の中でマモルが代われって言ってきたけど、それを無視して兄さんに抵抗したんです」

 ベニーは頭を撫でていた手で、明堂の躰を抱きしめ返した。

「今までできなかったことを、よくやりとげましたね」

「ベニー以外に、触れられたくなかったから。だって僕は、ベニーのものなんでしょう?」

「ええ、そうですよ」

「だったら、キスしてください。僕をこのまま奪って」

「弘泰聞いてください。君の中にいるマモルのことです」

 腕の力を抜いて明堂の顔を見つめながら、説得を試みる。

 熱情に動かされて自分を欲しがる彼を、うまくコントロールできる気は、正直なかった。でもここで感情に流され、欲情を満たす行為に及んでしまった場合、間違いなく明堂の中にいるマモルが、何かしでかす恐れがある。

 それだけは阻止しなければと心を鬼にして、明堂に語りかけた。
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