224 / 329
抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい
49
しおりを挟む
***
逢いたいと思っていた明堂が、浮かない顔で保健室にやって来た。頭痛がして寒気がするという彼をベッドに寝かせたベニーは、体温計を持って枕元に腰かける。
「それで、いつから頭が痛かったのですか?」
「……ついさっきです」
ベニーとしては明堂の顔色を窺うべく、顔を突き合わせたかったのに、なぜだか布団を鼻まで引き上げられてしまった。
「ついさっきですか、なるほど……」
他にも具合の悪い生徒が隣で寝ているので、あまり個人的なことを喋れない状況に、ベニーは落胆を隠せなかった。
「とりあえずこれで、体温を測ってくださいね」
沈んだ声で言いながら、体温計を持っていない手を布団に突っ込み、明堂の手を探す。捕まえたと思った矢先に、ベニーの指先が強く握りしめられた。
「ひろ……、明堂くん」
いつものくせで、つい名前を呼びかけてしまったことに焦りつつも、名字に言い直してあらためて呼んでみる。それなのに強く握りしめる明堂の手の力が、緩められることはなかった。
「ベニー先生」
「なんですか?」
「僕だけじゃなく、たくさんの生徒から名前で呼ばれて、すごく楽しそうですね」
「楽しいか楽しくないかを選択されるのなら、楽しいと言っておきます」
そう告げた途端に、握りしめられていた指先が解放された。今度はベニーが明堂の手をぎゅっと握りしめて、自分から逃げないようにする。
素早い動きに対処できなかったのか、明堂はされるがままでいた。
「放してください」
「たくさんの生徒に名前で呼ばれても、ここに来て一番最初に名前で呼んだのは明堂くん、君がはじめてですからね。それは誰にもできないことです」
あえて知らしめるべく、ハッキリと言い切った。
隣で寝ている生徒は、ちょくちょく顔を出す常連で、自分に気があることがわかっていたからこそ、効果があるだろうと考えた。
「それは、そうですけど……」
「しかも最近の明堂くんは忙しいのか、以前のように保健室に来なくなりましたね」
「誰のせいだと思ってるんですか」
文句のような明堂の言葉を聞き、ベニーは捕まえた手を布団から出して、甲にそっと口づけを落とした。
「私を名前で呼べる権利のことでしょうか」
「ベニー先生は人気者ですから。今じゃカースト上位者まで、僕に話しかけに来ますよ」
「名前呼びなんて、きっかけでしかありません。これは君の力なのです。それは――」
理由を話しかけた刹那、保健室にノックの音が響いた。
逢いたいと思っていた明堂が、浮かない顔で保健室にやって来た。頭痛がして寒気がするという彼をベッドに寝かせたベニーは、体温計を持って枕元に腰かける。
「それで、いつから頭が痛かったのですか?」
「……ついさっきです」
ベニーとしては明堂の顔色を窺うべく、顔を突き合わせたかったのに、なぜだか布団を鼻まで引き上げられてしまった。
「ついさっきですか、なるほど……」
他にも具合の悪い生徒が隣で寝ているので、あまり個人的なことを喋れない状況に、ベニーは落胆を隠せなかった。
「とりあえずこれで、体温を測ってくださいね」
沈んだ声で言いながら、体温計を持っていない手を布団に突っ込み、明堂の手を探す。捕まえたと思った矢先に、ベニーの指先が強く握りしめられた。
「ひろ……、明堂くん」
いつものくせで、つい名前を呼びかけてしまったことに焦りつつも、名字に言い直してあらためて呼んでみる。それなのに強く握りしめる明堂の手の力が、緩められることはなかった。
「ベニー先生」
「なんですか?」
「僕だけじゃなく、たくさんの生徒から名前で呼ばれて、すごく楽しそうですね」
「楽しいか楽しくないかを選択されるのなら、楽しいと言っておきます」
そう告げた途端に、握りしめられていた指先が解放された。今度はベニーが明堂の手をぎゅっと握りしめて、自分から逃げないようにする。
素早い動きに対処できなかったのか、明堂はされるがままでいた。
「放してください」
「たくさんの生徒に名前で呼ばれても、ここに来て一番最初に名前で呼んだのは明堂くん、君がはじめてですからね。それは誰にもできないことです」
あえて知らしめるべく、ハッキリと言い切った。
隣で寝ている生徒は、ちょくちょく顔を出す常連で、自分に気があることがわかっていたからこそ、効果があるだろうと考えた。
「それは、そうですけど……」
「しかも最近の明堂くんは忙しいのか、以前のように保健室に来なくなりましたね」
「誰のせいだと思ってるんですか」
文句のような明堂の言葉を聞き、ベニーは捕まえた手を布団から出して、甲にそっと口づけを落とした。
「私を名前で呼べる権利のことでしょうか」
「ベニー先生は人気者ですから。今じゃカースト上位者まで、僕に話しかけに来ますよ」
「名前呼びなんて、きっかけでしかありません。これは君の力なのです。それは――」
理由を話しかけた刹那、保健室にノックの音が響いた。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる