205 / 329
抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい
30
しおりを挟む
***
夕日が落ちかけた校舎の屋上で、扉を開けた瞬間に細長い影を見つけた。ベニーは無言のまま隣に並ぶ。
「どうだった?」
ローランドが横にいるベニーに視線を投げかけず、前を見た状態で訊ねた。
「わかりませんでした」
「これが証拠品だ。あちこちに同じ銘柄が落ちてた。ここでよく喫煙しているみたいだな」
ビニール袋に入れられた吸殻を目の前に差し出され、その量の多さにベニーはげんなりする。
ローランドから渡されたメモ紙には、執事をしていた世界で使っていた言語が使われていた。明堂が中身を読めないようにするためだろうと、瞬時に思いついたのだが、メモに記されていた内容はベニーの想像を超えるものだった。
『コイツは授業を堂々とサボって、屋上で喫煙していた。二面性の可能性あり、要注意!』
「俺がここに来たと同時に、煙草の火を消したと思う。煙草特有の残り香があったから、すぐに気がついた」
「…………」
「本当はわかってるんだろ? 隠しても無駄だ」
微妙な表情のベニーを見て、苛立ったローランドが軽く体当たりした。躰はちょっとだけぐらついただけなのに、責めるような口調で訊ねられたせいでベニーの心がぐらつき、吐露せずにはいられない。
「制服の内ポケットに、煙草の箱の感触がありました」
「他に思いついたことはないのか?」
「弘泰のメンタルは、想像以上に弱いと思います。これまでなされた酷いことに耐えられなくて、もうひとつの人格を作り、苦痛から回避している可能性があるかもしれない、と……」
「ちなみにそのもうひとつの人格は、どうすればアクセスできると思う?」
ベニーは沈んだ顔のまま首を横に振ったが、本当はわかっていた。明堂が受けている苦痛を徹底的に与えれば、間違いなくもうひとりの明堂が現れる。それを確かめるために、あのとき明堂に跨り、尋問するような言葉遣いで質問をした。でも途中からそれをするのがつらくなり、あっさり諦めてしまった。
「ヤツの躰は俺たちと同じ、選ばれた人間のものだろ。だが決定的に違うのは魂と躰を繋ぐものを、他人からちょうだいするか否かだ」
「そうですね」
「特別仕様だからといって、なにもせずに生活できるとは到底思えない。前世の記憶の有無以外は、俺らと変わりないとしか考えられないんだ」
「…………」
説得力のあるローランドのセリフを聞いているのに、頭がさっぱり働かない。明堂にされた可愛らしいキスばかり思い浮かんでしまい、ベニーの思考を見事に奪った。
「ベニー、しっかりしろ。これは目を背けていい案件じゃない。このままじゃ、前世と同じような結末になるかもしれないんだぞ」
「やっと……、やっと想いを告げたのです。彼はまだ私に好意を抱いてはいませんが、それでも手応えらしきものを感じた」
「それはどっちの人格の話だ? この煙草を吸っていたヤツなら、その好意を利用して、簡単におまえを騙しそうだけどな」
ローランドは手にしていたビニール袋を無理やりベニーに手渡すと、背中を向けて、屋上から出て行ってしまった。足取りの速さは自分と一緒にいたくない表れに感じて、ベニーは振り返りながら奥歯を噛みしめつつ、寂しさをやり過ごしたのだった。
夕日が落ちかけた校舎の屋上で、扉を開けた瞬間に細長い影を見つけた。ベニーは無言のまま隣に並ぶ。
「どうだった?」
ローランドが横にいるベニーに視線を投げかけず、前を見た状態で訊ねた。
「わかりませんでした」
「これが証拠品だ。あちこちに同じ銘柄が落ちてた。ここでよく喫煙しているみたいだな」
ビニール袋に入れられた吸殻を目の前に差し出され、その量の多さにベニーはげんなりする。
ローランドから渡されたメモ紙には、執事をしていた世界で使っていた言語が使われていた。明堂が中身を読めないようにするためだろうと、瞬時に思いついたのだが、メモに記されていた内容はベニーの想像を超えるものだった。
『コイツは授業を堂々とサボって、屋上で喫煙していた。二面性の可能性あり、要注意!』
「俺がここに来たと同時に、煙草の火を消したと思う。煙草特有の残り香があったから、すぐに気がついた」
「…………」
「本当はわかってるんだろ? 隠しても無駄だ」
微妙な表情のベニーを見て、苛立ったローランドが軽く体当たりした。躰はちょっとだけぐらついただけなのに、責めるような口調で訊ねられたせいでベニーの心がぐらつき、吐露せずにはいられない。
「制服の内ポケットに、煙草の箱の感触がありました」
「他に思いついたことはないのか?」
「弘泰のメンタルは、想像以上に弱いと思います。これまでなされた酷いことに耐えられなくて、もうひとつの人格を作り、苦痛から回避している可能性があるかもしれない、と……」
「ちなみにそのもうひとつの人格は、どうすればアクセスできると思う?」
ベニーは沈んだ顔のまま首を横に振ったが、本当はわかっていた。明堂が受けている苦痛を徹底的に与えれば、間違いなくもうひとりの明堂が現れる。それを確かめるために、あのとき明堂に跨り、尋問するような言葉遣いで質問をした。でも途中からそれをするのがつらくなり、あっさり諦めてしまった。
「ヤツの躰は俺たちと同じ、選ばれた人間のものだろ。だが決定的に違うのは魂と躰を繋ぐものを、他人からちょうだいするか否かだ」
「そうですね」
「特別仕様だからといって、なにもせずに生活できるとは到底思えない。前世の記憶の有無以外は、俺らと変わりないとしか考えられないんだ」
「…………」
説得力のあるローランドのセリフを聞いているのに、頭がさっぱり働かない。明堂にされた可愛らしいキスばかり思い浮かんでしまい、ベニーの思考を見事に奪った。
「ベニー、しっかりしろ。これは目を背けていい案件じゃない。このままじゃ、前世と同じような結末になるかもしれないんだぞ」
「やっと……、やっと想いを告げたのです。彼はまだ私に好意を抱いてはいませんが、それでも手応えらしきものを感じた」
「それはどっちの人格の話だ? この煙草を吸っていたヤツなら、その好意を利用して、簡単におまえを騙しそうだけどな」
ローランドは手にしていたビニール袋を無理やりベニーに手渡すと、背中を向けて、屋上から出て行ってしまった。足取りの速さは自分と一緒にいたくない表れに感じて、ベニーは振り返りながら奥歯を噛みしめつつ、寂しさをやり過ごしたのだった。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる