BL小説短編集

相沢蒼依

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抗うことのできない恋だから、どうか一緒に堕ちてほしい

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「嬉しいなんてとんでもない。明堂くんは怪我をしているんですよ、まったく!」

「保健室はベッドがあるだろ。ナニをするには、もってこいの場所じゃないか」

『ベッド』というセリフに反応して、躰が自動的に強張り、すーっと冷たくなっていく。そこは僕にとって安心して寝ることのできないところであり、望まぬ行為をする場所になっていた。

「先輩は黙ってください」

 瞬間的に躰を強張らせたことで、僕の異変に気がついたのか、ロレザス先生が背中に回している手を使って、大丈夫なことを示すように、指先で優しく肩口に触れてくれた。

「あの……」

 相変わらず強張りは取れないものの、冷たかった躰がそこから温かみを帯びていく。

(指先だけという僅かな接触なのに、どうしてこんなふうになってしまうんだろう?)

「安心してください、絶対に変なことはいたしません。着任早々問題を起こして首になったら、路頭に迷うことに繋がります。外国人の私たちを雇用してくれるところは、容易く見つけられないですから」

 まともすぎる正論なれど、信用することはできなかった。僕の周りにいる者が、欲に突き動かされて行動するヤツばかりだったから。

「私にとって明堂くんは、大切な生徒です。君を守るために、ここにやって来た……」

「えっ?」

「なんて言葉は安っぽいですよね。先輩、私の上着のポケットから保健室の鍵をとって、開けてくれませんか」

「ああ、両手が塞がってるもんな」

(――僕を守るためって、まるで正義のヒーローみたいなことを言う人だな。外国人ならではの、直球なのかもしれないけれど……)

 鍵を開けることを頼まれた男性は手早く開錠し、保健室の扉を開け放った。僕を抱きあげたままロレザス先生が中に入ると、薄暗い室内が瞬く間に明るくなる。

「先輩何から何まで、ありがとうございます」

「手際よくやらなきゃ、あとから絶対に文句をつけるだろ。ベニーちゃん厳しいからさ。くどくど言われちゃたまんねぇよ」

「ですね。えっとベッドは、あの衝立の向こうでしょうか」

 肩を竦めながら前を歩く男性の背後から指示を出すロレザス先生は、顔を見つめていた僕の視線に気がつき、躰に回している腕に力を込める。

「あ……」

 キツさを感じるくらいに抱きしめられると、離したくないみたいことを表しているように感じてしまった。絡められる視線の対処に困って、どんな顔していいのかわからなくなり、慌てて視線を外す。

 複雑な心境に陥る僕を他所に、前にいる男性はのん気な声を出した。

「はいはい、衝立をよけますよっと。ついでに、明堂くんの上靴を脱がせるな」

 そこまでたいした怪我をしていないというのに、イケメン外国人ふたりに至れり尽くせりの待遇を受けてしまったせいで、恐縮しまくりだった。

「いろいろお手数おかけして、本当にすみません……」

「いいんですよ。とりあえず横になる前に、ブレザーをいただいてよろしいでしょうか?」

 僕を一旦ベッドに腰掛けさせてから胸の前に手を当てて、わざわざ膝まづいて待機する。その姿はまるで執事のようで、一気に緊張してしまった。

「は、ははは、はいぃっ!」

 慌ててブレザーを脱ぎ、震える両手でロレザス先生に差し出した。思いっきり変な行動にとらわれているというのに、丁寧な所作でそれを受け取り肘にかける。そしてもう一度僕の躰をだき抱えて、ベッドの中央へと移動させてから優しく寝かせてくれた。

「少しの間、おやすみください。次のチャイムが鳴ったら起こしてあげます」

 布団をかけて、颯爽と衝立のむこう側に消えたロレザス先生から、ほんのりとバラのような香りが漂った。それがしだいに薄くなっていくにしたがって、眠気に襲われる。強く抱きしめられた痕跡を躰に感じながら、深い眠りに落ちたのだった。
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