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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい
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周りがまったく見えない真っ暗闇の中で、目の前にある大きなモニターに映し出されているものに、ローランドは立ったまま釘付けになっていた。
両目からとめどなく涙を流しながら、物言わぬ亡骸に縋りついている執事の姿は、頼りにしていたときには見ることのできないものだった。
「ローランド・クリシュナ・アジャ。汝の犯した罪は重罪につき――」
頭上から降り注ぐ声は、男女の区別がつかない声質で、自分にとって重要なことを告げていることがわかっているのに、全然心に響かない。
今は涙するベニーの姿を見ているだけで、胸が締めつけられるように痛んだ。
(ベニーはこのあと、僕の言いつけ通りに仕事に勤しむだろう。だがそれから先の彼は、どんな人生を歩んでいくのだろうか……)
「他人を殺めただけでなく、自分の命までも手にかけた罪を償ってもらう。だが今回は選ばれし人間の介入が作用していることが、要因のひとつになっているゆえ、そのことも考慮しなければならない」
「選ばれし人間?」
聞き慣れない言葉に、ローランドは小首を傾げながら問いかけた。
「汝からの質問と意見は、一切受けつけぬ」
「わかりました」
計画的のおこなった自分の罪について、質問はおろか弁解の余地すら許されないことを知り、まぶたを伏せる。それにもうこれ以上、泣きじゃくるベニーの顔を見たくはなかった。
「ローランド、汝は生まれ変わり、背負った罪を償う覚悟はあるか?」
「罪を償う覚悟……」
「つらい環境下だからといって、自殺することは当然許されない。もちろん他人を殺めるなんて、もってのほかだ。だがそれに耐え、寿命を全うするというのであれば、生まれ変わりを許可しよう。ただしかなりの困難がつき纏うことを、頭に入れておけ」
(いつも僕の傍にいた、ベニーはもういない。誰にも頼れないところで、歯を食いしばりながら罪を償っていくことは、間違いなくつらい毎日を送ることになるだろう。だけど僕がいないところでベニーが頑張っていると思えば、乗り切れる気がする)
「さて、どうする?」
見えないものからの問いかけに、ローランドは頭をしっかりあげて大きな声を出すべく、肺がいっぱいになるくらいに息を吸い込んだ。
「僕は生まれ変わりたい。つらい一生を送ることは覚悟の上です」
凛としたローランドの声が、暗闇の中で響き渡った。
「わかった、許可しよう。いつもなら前の記憶ごと、現世に魂を送り込むのだが諸事情により、汝の記憶の一部を削除せねばならん」
前の記憶――ベニーを忘れてしまうかもしれないことに一瞬躊躇したが、我儘を言える立場ではないので、ローランドはぐっと堪えた。
「なんせ特例措置でな、すべて丸ごと消し去るというわけではないから安心しろ。まったく、こちらの思惑を外れる人間がいると、調整するのに苦労させられる」
小さく笑った声とともに、天井から眩い光がローランドに向かって当てられた。
「わっ!」
網膜に突き刺さるような光に、顔の前で片手をかざして遮りながら、ぎゅっと両目を閉じる。次の瞬間には穴の底に落ちていく感覚を、全身で捉えた。
放り出された先に、どんな人生が待ち受けているのか――ローランドは胸の前で両手を組み、祈りながらそこへ導かれる。
違う場所で彼が生きているなら、どんな世界だろうと生きていたいと強く思ったのだった。
おしまい
※途中で栞がばんばん剥がれて閲覧数がなくなっていくことに、ほとほと疲れ果てながら最後まで書ききりました。完結までお付き合いくださり、ありがとうございます。この話の続きを読みたいという読者さんがいるでしょうか。書いてみたい気がするのですが、反応がなさそうで怖かったりします。。。
周りがまったく見えない真っ暗闇の中で、目の前にある大きなモニターに映し出されているものに、ローランドは立ったまま釘付けになっていた。
両目からとめどなく涙を流しながら、物言わぬ亡骸に縋りついている執事の姿は、頼りにしていたときには見ることのできないものだった。
「ローランド・クリシュナ・アジャ。汝の犯した罪は重罪につき――」
頭上から降り注ぐ声は、男女の区別がつかない声質で、自分にとって重要なことを告げていることがわかっているのに、全然心に響かない。
今は涙するベニーの姿を見ているだけで、胸が締めつけられるように痛んだ。
(ベニーはこのあと、僕の言いつけ通りに仕事に勤しむだろう。だがそれから先の彼は、どんな人生を歩んでいくのだろうか……)
「他人を殺めただけでなく、自分の命までも手にかけた罪を償ってもらう。だが今回は選ばれし人間の介入が作用していることが、要因のひとつになっているゆえ、そのことも考慮しなければならない」
「選ばれし人間?」
聞き慣れない言葉に、ローランドは小首を傾げながら問いかけた。
「汝からの質問と意見は、一切受けつけぬ」
「わかりました」
計画的のおこなった自分の罪について、質問はおろか弁解の余地すら許されないことを知り、まぶたを伏せる。それにもうこれ以上、泣きじゃくるベニーの顔を見たくはなかった。
「ローランド、汝は生まれ変わり、背負った罪を償う覚悟はあるか?」
「罪を償う覚悟……」
「つらい環境下だからといって、自殺することは当然許されない。もちろん他人を殺めるなんて、もってのほかだ。だがそれに耐え、寿命を全うするというのであれば、生まれ変わりを許可しよう。ただしかなりの困難がつき纏うことを、頭に入れておけ」
(いつも僕の傍にいた、ベニーはもういない。誰にも頼れないところで、歯を食いしばりながら罪を償っていくことは、間違いなくつらい毎日を送ることになるだろう。だけど僕がいないところでベニーが頑張っていると思えば、乗り切れる気がする)
「さて、どうする?」
見えないものからの問いかけに、ローランドは頭をしっかりあげて大きな声を出すべく、肺がいっぱいになるくらいに息を吸い込んだ。
「僕は生まれ変わりたい。つらい一生を送ることは覚悟の上です」
凛としたローランドの声が、暗闇の中で響き渡った。
「わかった、許可しよう。いつもなら前の記憶ごと、現世に魂を送り込むのだが諸事情により、汝の記憶の一部を削除せねばならん」
前の記憶――ベニーを忘れてしまうかもしれないことに一瞬躊躇したが、我儘を言える立場ではないので、ローランドはぐっと堪えた。
「なんせ特例措置でな、すべて丸ごと消し去るというわけではないから安心しろ。まったく、こちらの思惑を外れる人間がいると、調整するのに苦労させられる」
小さく笑った声とともに、天井から眩い光がローランドに向かって当てられた。
「わっ!」
網膜に突き刺さるような光に、顔の前で片手をかざして遮りながら、ぎゅっと両目を閉じる。次の瞬間には穴の底に落ちていく感覚を、全身で捉えた。
放り出された先に、どんな人生が待ち受けているのか――ローランドは胸の前で両手を組み、祈りながらそこへ導かれる。
違う場所で彼が生きているなら、どんな世界だろうと生きていたいと強く思ったのだった。
おしまい
※途中で栞がばんばん剥がれて閲覧数がなくなっていくことに、ほとほと疲れ果てながら最後まで書ききりました。完結までお付き合いくださり、ありがとうございます。この話の続きを読みたいという読者さんがいるでしょうか。書いてみたい気がするのですが、反応がなさそうで怖かったりします。。。
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