BL小説短編集

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
166 / 329
抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい

89

しおりを挟む
「ここで本当の恋をしたのは、自分の死を直感したからなのかもしれません。ですから今回ローランド様に、手を貸さずにはいられなかった」

 ベニーは今までで一番、寂しげな笑みを浮かべた。

「死って、どうして――」

「なんとなく。伯爵に殺されるような気がしたのです。これも、刑事の勘っていうやつなのかもしれませんが」

「そんな……、そんなことは」

 意味ありげな上目遣いで黒ずくめの男を眺めるベニーに、青ざめた顔でたどたどしい返事をする。

「口では否定的なことを言ってますが、先輩はご存知だったのでしょう?」

「知らないって」

 確信をつく言葉に即答するなり、ふいっと視線を逸らした。その態度で、自分の指摘したことが正解だったのをベニーは知る。

「僕が殺される前に伯爵を亡き者にすれば、ローランド様の恋に諦めがつく。その弱ったところを僕が慰めながら愛を与えたら、きっとふたりは恋に堕ちるでしょう。みたいな筋書きといったところですかね」

「ははっ…ありふれた話すぎて、笑いすら起きない」

 あらぬ方を見て答える黒ずくめの男に、軽快な口調で流暢に語りかけた。

「伯爵はローランド様と付き合いはじめて、まだこれからという時期です。週に何度も顔をあわせるくらいに熱々でしたのに、ある日を境に伯爵の足がぴたりと止まりました。普通なら、おかしいと思うでしょう」

ベニーが説明していると、銛に刺さったままの獲物が急に暴れだした。それを宥めるように、反対の手を使って撫で擦る。すると魚みたいに左右に蠢いていた獲物が、次第におとなしくなり、やがてピクリとも動かなくなった。

「おかしいだろうか。移り気な伯爵が飽きただけだろ……」

「なんでも自分のいいなりになる、綺麗なお人形を手に入れたばかりですよ。ですから逢瀬をやめた理由を、僕なりに推理したんです。伯爵は人一倍警戒心の強いお人でしたから、自身に向けられる何かを察知し、極力外出を控えていたんだと思います」

 反論するのが難しいセリフの羅列に、黒ずくめの男の眉間に皺が寄る。

「やー、実際はどうだったのか……」

「笑えないと言いつつも、しっかり苦笑いを浮かべる先輩は、嘘がつけないみたいですね」

 ベニーは作り笑いのまま空いている手で、黒ずくめの男の頬を引っ張った。

「いてててっ」

「本当に困った先輩です。好きな方と天珠を全うできずに、気がついたら300年生きてしまって、その救済措置が見守り人ということなのでしょう?」

 自身の機嫌が悪くなると、どうにも話が不穏なところにいきつくことがわかっているのに、ベニーは口撃を止められなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...