BL小説短編集

相沢蒼依

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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい

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 ローランドが任された紅茶畑に顔を出しても、伯爵が来訪しない数が日ごとに増えていった。

 半年もしないうちに、毎回日帰りできるようになり、以前よりも仕事が捗っているというのに、ぼんやりとした虚ろな表情をみせる主を目の当たりにして、ベニーは考えた。

「ローランド様、少しよろしいでしょうか」

「どうした? 書類になにか不備でもあったか?」

 大机に整頓されている書類に手を伸ばしながら、利き手はサインの書き込みをするローランドの頬に手を添えた。

「ベニー?」

 無反応な態度で接したローランドに、ベニーはすぐさま手を引っこめる。

(この手が伯爵のものならば、甘い声をあげるなり、差し出した手に自分の手を重ねるのでしょうね)

「ローランド様が、仕事に精を出しすぎている気がいたします」

「おまえにとっては、願ったり叶ったりだろう?」

「アポなしで明日、伯爵のお屋敷に向かうのはどうでしょうか」

 冗談のようなベニーの意見を聞きながら、書類のチェックをしつつ、意味深に唇を綻ばせた。

「それってなんだか、アーサー卿の浮気調査をしに行くみたいな感じがするな」

 首や背中につけられた傷はとうに治り、伸びをしても顔をしかめることがなくなった。それはそれでいいことなのに、仕事をしていないときにみせる虚ろなローランドの顔を見たくないと、ベニーは思った。

 そして早いうちにこの恋愛に決着をつけたほうが、心の傷あとが残りにくいと考え、あえて提案したのだった。

「明日一日くらい仕事を休んでも、支障はございません。私も今日中に明日の仕事を終わらせますゆえ、伯爵に面会されたらどうでしょう」

「……突然訪ねたりしたら、迷惑じゃないだろうか」

「伯爵が現地で待ち構えていて、ローランド様は迷惑でしたか?」

「いいや、嬉しかった」

「でしたら決定ですね。明日朝一番で、王都に向いましょう!」

 ベニーの弾んだ声を聞き、ローランドは久しぶりに穏やかな笑顔を見せたのだった。
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