BL小説短編集

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
136 / 329
抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい

59

しおりを挟む
 涙に濡れた瞳はエメラルド色が濃く艶めき、悲しんでいるローランドを前にしているというのに、ベニーは不謹慎な気持ちになった。

 治療道具の片付けの手を止め、泣き崩れる躰をぎゅっと抱きしめる。

「なぁベニー」

「なんでございましょう?」

「おまえも僕を抱きたいのか?」

 唐突になされた質問に、ベニーの心臓はどくんと跳ね上がった。

 落ち着かなければと焦れば焦るほどに、鼓動がさらに高鳴る。腕の中にいるローランドにそれがバレないようにしようと、ちょっとだけ躰のスペースをあけた。

「アーサー卿が言っていた。ベニーもそういう気持ちで僕を狙ってると」

「そ、それは……」

 伯爵がついた嘘だと弁解したいのに、口の中が一気に干上がって、一言も発することができなかった。

「穢れてしまった僕でよければ、このまま抱いてもいいぞ」

「ローランド様は穢れてなどおりません。それに――」

「それに?」

「ローランド様のお心には、伯爵がおられるではないですか」

「いたところで、僕の想いは実らないだろう。遊び人のアーサー卿を好きになった時点で、この恋は終わってる」

(やけにあっさりと、お認めになられたな――)

「おまえに抱かれたら、その想いが薄まると思ったのだが」

 ベニーはローランドの両肩に手を置き、躰を引き離しながら首を横に振った。

「そんなことで薄まるものなら、どなたも苦労はしません。恋とは考える以上に、難しいことなのです」

「ベニー?」

「私の好きになる方は昔も今も、他の誰かを好きになってしまう……」

 首をもたげたベニーの言葉に、ローランドは息を飲んだ。

「今夜はこれにて失礼いたします。おやすみなさいませ」

 ベニーは、手早く治療道具を片づけてから静かに立ち上がり、いつものように微笑みながら丁寧にお辞儀をする。見つめる視線を振り切る感じで、足早に部屋を出て行った。ローランドはその背中を、黙ったまま見送った。

 いなくなってもしばらくの間、出て行った扉をいつまでも眺め続けたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...