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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい
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顔面蒼白になったベニーを見て、年配の執事が気を遣ったのか、メイドに向かって仕事へ戻るように命じた。
そそくさと立ち去る後ろ姿を見ていたら、一緒に屋敷の奥に入りたい衝動に駆られる。
「ロ……ローランド様は、どこにいらっしゃいますか?」
乾いた声で、聞きたいことをやっと口にしたベニーに、年配の執事は首を横に振った。
「主の言いつけは、絶対でございます。貴方をお通しするわけには、まいりません」
「ですが、伯爵が何をしているのかをご存知のはず。それを止めない執事が、どこにいるのでしょう」
途中から怒りを抑えられなくなったベニーの声が、玄関先に響き渡る。それでも年配の執事は顔色ひとつ変えずに、淡々とした口調で語りかけた。
「ここで騒ぎを起こせば、誰が貴方の責任をとることになりますか?」
「私は、騒ぎを起こしたいわけではありません。ローランド様をお助けしたい一心なのです」
「助けなければならないことを、我が主がしているというのですね」
鋭さを含んだ声色に変わったのを瞬時に悟り、二の句が継げられなくなった。
「確かにアーサー様は、遊びが過ぎるところがおありです。ですがそれにも意味があるからこそ、おこなっているのでございます」
「その遊びが過ぎることについて、執事として窘めたりしないのでしょうか」
互いの仕事を分かり合えるゆえの、ベニーからの切り返しだった。
「窘める必要はございません。すべては貴族派閥のサブリーダーとして、王族派閥との均衡を保つためにおこなっていることですから」
「ローランド様は一応、貴族派閥に属していらっしゃる身。王族派閥とは、無関係でございます。それなのに――」
「我々では見えないところに、何かがあるのかもしれませんね」
やんわりと押し返される回答に、ベニーは両拳を握りしめた。こうしてる間に、ローランドの身がどうなっているのか、心配でならない。
「ここを通していただきたい!」
「貴方と立場が逆だとしても、主が自分のもとに帰って来るのをひたすら待ちます」
「なぜです? どうして――」
「なぜならその行為によって、主のポジションが揺らぐことのないものになるからです。アーサー様の囲いがあれば、誰も手を出せません。有意義に男爵としての仕事が、全うできるでしょう」
「……ご本人はそんなことを望んでいらっしゃらないのに、こんなの――」
あんまりだとつぶやく前に、年配の執事がベニーの躰を扉の外に押し出した。
「孤児院出身の貴方なら、身分の違いが痛いほど分かっているでしょう。男爵家が伯爵のおこなうことについて、物申すとは言語道断。恥を知りなさい」
ぴしゃりと言い放つと同時にベニーの目の前で、音を立てて扉が閉められた。
「力のない私は、好きになったお方をいつも守れない。いつもいつも……」
明るい日差しが降り注ぐ扉の前で、暗い気持ちを胸に抱えたまま、戻ってこないローランドをベニーはひたすら待ち続けたのだった。
そそくさと立ち去る後ろ姿を見ていたら、一緒に屋敷の奥に入りたい衝動に駆られる。
「ロ……ローランド様は、どこにいらっしゃいますか?」
乾いた声で、聞きたいことをやっと口にしたベニーに、年配の執事は首を横に振った。
「主の言いつけは、絶対でございます。貴方をお通しするわけには、まいりません」
「ですが、伯爵が何をしているのかをご存知のはず。それを止めない執事が、どこにいるのでしょう」
途中から怒りを抑えられなくなったベニーの声が、玄関先に響き渡る。それでも年配の執事は顔色ひとつ変えずに、淡々とした口調で語りかけた。
「ここで騒ぎを起こせば、誰が貴方の責任をとることになりますか?」
「私は、騒ぎを起こしたいわけではありません。ローランド様をお助けしたい一心なのです」
「助けなければならないことを、我が主がしているというのですね」
鋭さを含んだ声色に変わったのを瞬時に悟り、二の句が継げられなくなった。
「確かにアーサー様は、遊びが過ぎるところがおありです。ですがそれにも意味があるからこそ、おこなっているのでございます」
「その遊びが過ぎることについて、執事として窘めたりしないのでしょうか」
互いの仕事を分かり合えるゆえの、ベニーからの切り返しだった。
「窘める必要はございません。すべては貴族派閥のサブリーダーとして、王族派閥との均衡を保つためにおこなっていることですから」
「ローランド様は一応、貴族派閥に属していらっしゃる身。王族派閥とは、無関係でございます。それなのに――」
「我々では見えないところに、何かがあるのかもしれませんね」
やんわりと押し返される回答に、ベニーは両拳を握りしめた。こうしてる間に、ローランドの身がどうなっているのか、心配でならない。
「ここを通していただきたい!」
「貴方と立場が逆だとしても、主が自分のもとに帰って来るのをひたすら待ちます」
「なぜです? どうして――」
「なぜならその行為によって、主のポジションが揺らぐことのないものになるからです。アーサー様の囲いがあれば、誰も手を出せません。有意義に男爵としての仕事が、全うできるでしょう」
「……ご本人はそんなことを望んでいらっしゃらないのに、こんなの――」
あんまりだとつぶやく前に、年配の執事がベニーの躰を扉の外に押し出した。
「孤児院出身の貴方なら、身分の違いが痛いほど分かっているでしょう。男爵家が伯爵のおこなうことについて、物申すとは言語道断。恥を知りなさい」
ぴしゃりと言い放つと同時にベニーの目の前で、音を立てて扉が閉められた。
「力のない私は、好きになったお方をいつも守れない。いつもいつも……」
明るい日差しが降り注ぐ扉の前で、暗い気持ちを胸に抱えたまま、戻ってこないローランドをベニーはひたすら待ち続けたのだった。
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