BL小説短編集

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
123 / 329
抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい

46

しおりを挟む
「伯爵、私はローランド様に頼まれて、ここに来ているのです。不躾な言動で、仕事の邪魔をしないでいただきたい。お願いできますでしょうか」

 ベニーはやんわりと伯爵に注意を促し、箱の中に落とした書類を拾い上げようとした。その刹那、背後から伸ばされた手がそれを掻っ攫う。

「伯爵!?」

「こんな紙切れ、ローランドには必要のないものだ」

 薄笑いを浮かべた伯爵は言うなり、音を立てて引きちぎった。ビリビリに細かく破られた書類が、ベニーの頭に降り注ぐ。花びらのように舞い散りながら降ってきたそれをただ黙って、茫然と見つめることしかできない。

(破かれてしまった書類の内容は、重要なことが記されていないものだったからよかったものの……。このあとも同じように破られたりしたら、たまったもんじゃない)

「あの夜と同じだな。俺を前にして、大切なものを守れない。手も足も出ないといったところか」

「残念ながらそのようです。私は無力な男です。情けない……」

 言いながら、膝に置いてる両手を握りしめる。悔しさを隠すことすら馬鹿らしくなったベニーの肩の力が、すとんと抜け落ちた。

 早々に白旗をあげれば、伯爵の嫌がらせがなくなるだろうと考えたものの、確証がないだけに、不用意な発言を控えながら全身で脱力感を滲ませて、警戒していることを秘めた。

「ローランドに手を出さなかったのは、機をうかがっていたからだろう? 臆病な君らしいといえば、そうだが」

「信頼関係と一緒に、愛を育めたらいいなと考えておりました。貴方のように無理やり奪うことは、絶対にいたしません。私にとってローランド様は、大切で尊いお方ですので」

「大切で尊いと言いながらも、不埒な関係になりたがってるなんて、執事殿はおかしな男だな」

「大切だからこそ、自分の手で愛でたいと思いませんか?」

「俺の手で穢れてしまったローランドを、まだ愛せるのか?」

 ベニーからの問いかけを質問で返した伯爵の表情は、どこか馬鹿にしているように見えた。ローランドに手をつけたという優越感が、そうさせているのだろうと考えついたのだが――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...