BL小説短編集

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
117 / 329
抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい

40

しおりを挟む
*:,.:.,.*:,.:.,.*:,.:.,.。

 予定の時刻になっても帰宅しないローランドの身を案じて、ベニーは何度も懐中時計を確認してしまった。

 日暮れまでには帰ると公言していただけに、何かあったのではないかと心配になり、玄関を行ったり来たりした。しまいには扉を開けて、外を確認してしまう始末。

 やらなければならない仕事を手に抱えた状態のまま、そんなことをしているせいで、当然遅々として進まない。

(頼まれていた仕事の進捗具合を見て、ローランド様は間違いなく叱るであろう。それが分かっているに、玄関から離れることができないなんて……)

 俯きながら大きなため息をついた瞬間、外から聞き慣れたエンジン音を素早く聞きとった。手にしていた書類を放り投げて、すぐに表に駆け出したかったが、ぞんざいに扱うわけにもいかない。

 出窓に立てかける形で置いてから、身を翻して外に飛び出した。

「ただいま、ベニー」

 疲れた躰を引きずるような感じで運転席から降り立つ、ローランドのもとに駆け寄る。

「お帰りなさいませ。ゼンデン子爵のお屋敷で、何かあったのでしょうか?」

 今日立ち寄るところで遅くなるであろう原因を瞬時に考えたとき、引き継ぎをおこなうため事前に連絡をしていた、ゼンデン子爵の屋敷が一番濃厚だった。

「ゼンデン子爵の屋敷には行ってない。アーサー卿に待ち伏せされてしまったから」

「え? 伯爵がどこで、待ち伏せしていたのですか?」

「茶畑。この間のことを謝るために2時間、何もないところでひとりきりで待っていた。呆れて物が言えなかった」

 運転席のドアを閉めてから後部座席のドアを開ける、ローランドの視線の先を追ってみる。段ボール箱が3つ、積み込まれていた。

「茶畑から車で10分くらいのところに、アーサー卿の別荘があるんだけど、引き継ぎに使うものがゼンデン子爵の屋敷から既に運ばれていたんだ」

「用意周到ですね」

「ああ。ゼンデン子爵の執事に電話したときには、そんなこと一言も告げられなかったし。僕が連絡したあとに、荷物を移動したのか」

「あるいは、伯爵が口止めしたのかもしれません」

 ベニーの言葉を聞きながら、腰を曲げて車内に躰を潜り込ませたローランドの動きで、ふとそれが香ってきた。サンダルウッドとムスクを足したその香りは、伯爵が使っている香水のそれだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...