BL小説短編集

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
105 / 329
抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい

28

しおりを挟む
「ローランド様っ!? ローランド様、大丈夫でございますか?」

 大きく揺さぶられる衝撃で、思い出したくない悪夢の中から意識を取り戻した。

「ローランド様――」

「僕は……、あれ?」

 車の後部座席に座って、シートベルトを締めた状態でいる自分の状況に、思考がやっと追いつく。何の気なしに窓の外を見たら、あと30分ほどで屋敷に到着する位置だということを把握した。

「随分うなされていたようですが、ご気分はどうでしょう?」

「二日酔いからくる、頭痛が少しあるだけだ。ベニーだって疲れているのに、僕のせいでこんなところで足止めさせて悪かった」

 こめかみに手を当てながら首を横に振ってみたが、頭痛はとれるはずもなく、余計に酷くなる。

「とんでもございません。鎮痛薬を今すぐご用意いたしますので、少々お待ちください」

 薬を持ち歩いていることに、執事としての有能さを感じつつ、彼がいなくなった場合を想像してみて、ゾッとしてしまった。

 何から何までベニーに頼りすぎている、自分の無能さを噛みしめる。

「質素な紙コップで水をお渡しすることになり、大変申し訳ございません」

「かまわない。ありがたくいただくとする」

 鎮痛剤と水の入った紙コップを受け取り、すぐさま薬を服用した。

「ベニーがいないと、僕はただの役立たずに成り下がる」

「そんなことはございません。ローランド様は私を助けてくださった、唯一無二の恩人でございます」

 残っていた水をすべて飲み干すと、ベニーの手により自動的にゴミが回収された。

「僕は自分なりに夢を見ていたのに、現実は残酷だな……」

「夢?」

「ああ。好きな人に触れてドキドキしながら、相手を抱くことを夢見ていたのに、そんな幻想をぶち壊された。僕のはじめてを、アーサー卿に奪われてしまった」

「ローランド様は覚えていらっしゃらないと思いますが、ファーストキスは私とかわしたのですよ」

 落ち込む僕を励ますような声色に聞こえたのは、気のせいなんかじゃない。瞬きをしながらベニーを見たら、優しく微笑んでいた。

「えっ? 記憶にないが……」

「私が奥様のお見舞いに、お屋敷を訪れていた頃ですから、ローランド様はまだお小さかったでしょうね」

(そういえば母様が亡くなる少し前、ベニーはよく屋敷に顔を出していたっけ。小さい僕に逢うたびに「大きくなりましたね」と言って褒めてくれるものだから、嬉しくてたまらなかったんだ)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

処理中です...