BL小説短編集

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
97 / 329
抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい

20

しおりを挟む
 伯爵はさきほどのグラスを僕に戻し、減った以上のワインを足していく。なみなみと注がれてしまった赤ワインを前に、絶句するしかない。

「さぁさぁ、そんなふうに固まっていないで、遠慮せずに飲むといい。俺も付き合うよ」

 同じ量を自分のグラスに注ぎ入れ、隣で美味しそうに飲む姿を見つめる。手にしたグラスの重さのせいで、飲む気には到底なれなかった。

「男爵、飲むんだ。さもないと――」

 言葉の続きが聞きたくなかった僕は、煽るようにグラスの中身を一気に空けた。風呂に浸かっているときと同じように、躰が熱くなっていくのを感じていたら、グラスにワインがふたたび注がれる。

「今度は味わう感じで、ゆっくり口にするといい。上品にね、こうやって飲むんだよ」

 頼んでもいないのに、またしても口移しでワインを飲ませる伯爵に、抵抗する気はおろか、されるがままでいるのがやっとだった。正常な判断ができないのは、普段飲まないお酒を、一気に飲んだせいかもしれない。

「ふ、くぅっ……」

「このワインのように、頬を真っ赤に染めて可愛いね。いますぐにでも、食べてしまいたいくらいに熟してる。ここもこんなに熱くして」

「や…め…うっ!」

 カタチの変わってしまった敏感な部分に触れられたというのに、麻痺したみたいに両手が使えず、抗う力がさっぱり沸かない。できることなら持ってるグラスの中身を、伯爵に浴びせたいくらいなのに。

 そんな僕の気持ちを知っているか、手にしてるグラスを奪うなり、ベッドの上に押し倒された。酔いのせいで、天井がゆらりゆらりと回っている。

「もう少しだけ、男爵を酔わせてからと思っていたが、色っぽい声を出す君に堪らなくなってしまった」

 伯爵は笑いながら胸元で結ばれたタイを解き、服を脱がしにかかる。

 奥歯をぎゅっと噛みしめて、これ以上変な声をあげないようにしつつ、泣きだすまいと意地になって何とか我慢した。躰を奪われても心だけは渡さないという、自分なりの小さな抵抗だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

処理中です...