BL小説短編集

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
94 / 329
抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい

17

しおりを挟む
『私に何かが起こって、どうしてもお助けできない場合は、お願いですからどうか見捨てて、ローランド様おひとりで逃げてください。いいですね』

 舞踏会の会場でキツく言われたことが、頭の中を駆け巡る。伯爵から手を放された今なら、扉に向かって逃げることが可能だった。

(アーサー卿に卑怯者呼ばわりされようが、ベニーとの約束を守るのが最優先事項だ。何としてでも逃げなくては――)

 このまま背中を向けたら、伯爵に襲われる気がした。足を引っかけるものがないか背後を気にしながら後退りしつつ、確実に扉に向かう。

そんな僕を捕まえることなく、伯爵は胸の前に腕を組んで、悠然と眺めていた。

「男爵、俺は君にだけ優しいが、他の奴にはそんな情けをかけないからな」

「…………」

「君がこのまま出て行ったら、さきほど逢った用心棒が控える部屋に、執事殿を連行する」

 それは、ちょうどドアノブに触れたときに告げられた。てのひらに感じるドアノブがなぜだか冷たくて、まるで氷を掴んでいるみたいだった。

「用心棒三人がかりで、執事殿をどうするか……。日頃のうっ憤を晴らすのにサンドバッグにされるか、あるいは性的欲求を満たすために弄ばれてしまうのか。どっちにしろ、ボロ雑巾のように扱われるのは目に見える」

「そんなの、あんまりだ……」

「これをとめることができるのは男爵、君しかいないんだよ」

 ドアノブを動かして扉を開けて、廊下に飛び出る。そのまま真っ直ぐ走って、突き当りを右に曲がり、すぐさま左に曲がって正面玄関を目指せばいい。

 頭の中で次の行動が指示されているというのに、扉の前に立ち竦んだまま、動くことができなかった。ドアノブを掴む手ですら、ぴくりとも動かせない。

「ベニー……」

「心の優しい男爵の気持ち、俺は分かっているよ。さぁこの手を取りたまえ」

 伯爵はそこから動くことなく、僕に向かって右腕を差し出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...