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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい
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「この部屋は『信頼の間』と言って、俺の眼鏡にかなった者しか入れないことになっている。だがそんな俺の目を欺き、ここにある骨董品に手を出す人間が残念ながら、少なからずいるんだ」
「アーサー伯爵が相手の信頼を測るために、あえてこういう物をご用意されているように見受けられますが?」
ベニーの鋭い問いかけに、伯爵は形のいい眉毛を上げながら意味深に微笑む。じっとりとしたものをまとった笑みで見つめられるのが嫌で、ふたたびベニーの影に隠れた。
「表面上の付き合いだけでは、分からないこともあるだろう? 無論、男爵はこういったものには目もくれないことは、想定済みだったけどね」
「そんなことはございません。最初に通された部屋に飾られている絵画に、心惹かれるものがあったご様子でした」
僕をフォローするためなのか、ベニーがわざわざ持ち上げてくれたのだが――。
(高そうな絵だなぁと、内心呆れながら眺めていただけなのに……。アーサー卿に何か質問されたら、まともに答えられないぞ)
「ほう、男爵があの絵を。実は俺も大層気に入っていてね、まるで運命を感じてしまう」
「やっ、はあ、そうですか……」
ベニーを盾にして、しどろもどろに答えるのが精いっぱいだった。でまかせを勝手に運命にされても、迷惑なことこの上ない。
「ではあちらの部屋で、その絵を鑑賞しながら土地の話を進めよう」
「あ、はい」
「執事殿は、この部屋で待っていてくれ。鍵がかからない部屋だ、男爵に何かあればすぐに駆けつけられるだろう?」
一緒に部屋を出ようとしていた、ベニーの足が止まった。振り返って彼を仰ぎ見ると、無言のまま静かに頷く。
信頼の間で相手を試すような罠を仕掛けている部屋に、ベニーを置き去りにしたくはなかった。
「ローランド様、私はここで静かに待っております。何かあれば――」
「ああ、分かった。お前も無理するなよ」
「男爵、そこまで警戒しなくても大丈夫だ。それに執事殿の目が光っているうちは、手を出せそうにないし」
名残惜しげに立ち止まる僕の足を動かそうと、伯爵が肩に手を回してきた。頭を下げて僕らを見送るベニーの真摯な態度に突き動かされて、仕方なく別室に移動する。
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