BL小説短編集

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
91 / 329
抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい

14

しおりを挟む
「この部屋は『信頼の間』と言って、俺の眼鏡にかなった者しか入れないことになっている。だがそんな俺の目を欺き、ここにある骨董品に手を出す人間が残念ながら、少なからずいるんだ」

「アーサー伯爵が相手の信頼を測るために、あえてこういう物をご用意されているように見受けられますが?」

 ベニーの鋭い問いかけに、伯爵は形のいい眉毛を上げながら意味深に微笑む。じっとりとしたものをまとった笑みで見つめられるのが嫌で、ふたたびベニーの影に隠れた。

「表面上の付き合いだけでは、分からないこともあるだろう? 無論、男爵はこういったものには目もくれないことは、想定済みだったけどね」

「そんなことはございません。最初に通された部屋に飾られている絵画に、心惹かれるものがあったご様子でした」

 僕をフォローするためなのか、ベニーがわざわざ持ち上げてくれたのだが――。

(高そうな絵だなぁと、内心呆れながら眺めていただけなのに……。アーサー卿に何か質問されたら、まともに答えられないぞ)

「ほう、男爵があの絵を。実は俺も大層気に入っていてね、まるで運命を感じてしまう」

「やっ、はあ、そうですか……」

 ベニーを盾にして、しどろもどろに答えるのが精いっぱいだった。でまかせを勝手に運命にされても、迷惑なことこの上ない。

「ではあちらの部屋で、その絵を鑑賞しながら土地の話を進めよう」

「あ、はい」

「執事殿は、この部屋で待っていてくれ。鍵がかからない部屋だ、男爵に何かあればすぐに駆けつけられるだろう?」

 一緒に部屋を出ようとしていた、ベニーの足が止まった。振り返って彼を仰ぎ見ると、無言のまま静かに頷く。

 信頼の間で相手を試すような罠を仕掛けている部屋に、ベニーを置き去りにしたくはなかった。

「ローランド様、私はここで静かに待っております。何かあれば――」

「ああ、分かった。お前も無理するなよ」

「男爵、そこまで警戒しなくても大丈夫だ。それに執事殿の目が光っているうちは、手を出せそうにないし」

 名残惜しげに立ち止まる僕の足を動かそうと、伯爵が肩に手を回してきた。頭を下げて僕らを見送るベニーの真摯な態度に突き動かされて、仕方なく別室に移動する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

処理中です...