90 / 329
抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい
13
しおりを挟む
「ベニー、どうした?」
袖を引っ張って揺さぶったというのに、それを無視して落ち着きなく首を動かす。
「ベニー!」
「一瞬でしたが、微かに匂いを感じたんです。野菊のような花の香りが……」
「だけどこの部屋は黄金ばかりで、草花はひとつも飾られていないぞ」
黄金の装飾品が溢れる部屋に足を踏み入れ、改めて周りを見渡しながら、ベニーが指摘した花の匂いを追いかけてみた。
「やっぱりそれらしきものはおろか、造花すらない」
「ええ、ですから違和感がございまして」
ベニーも僕と同じように鼻をくんくんさせながら、室内をあちこち眺める。
「男爵、何かお気に召すものでもあったのかい?」
突然背後からなされた問いかけに、びくっと躰が竦んでしまった。
「こっ、これはアーサー卿、勝手に失礼いたしました。まばゆい装飾が施された珍しい品ばかり置かれていたものですから、思わず引き寄せられてしまった次第です」
(背中に冷や汗を感じながら薄ら笑いを浮かべて、ペラペラと喋っている僕の姿は、伯爵の目にはさぞかし滑稽に映っているだろう)
「引き寄せられたと言ったのに、部屋に置かれているものには、一切触れていないようだが?」
「触れるなんてとんでもない。何かあった場合を考えたら、僕の資産では到底払いきれません」
「さすがは男爵、賢明な判断をされる。この部屋にある一部の骨董品は、ちょっとでも動かすと警報が作動するような仕組みになっていてね」
言いながら室内に入るなり、暖炉の上に並べてあった置物に素早く触れていく伯爵。
どの置物で警報が作動するのか分からなかったが、まるで子どもがいたずらをしているようなそれを、ベニーと一緒に黙って見つめた。すると数秒後には廊下から大きな足音が聞こえるや否や、ノックもなしにドアが大きく開かれる。
入ってきたのは、下働きをしているらしい若い男が3人。目に鋭さを含んでいる様子に驚き、慌ててベニーの影に隠れると、追いかけるように僕らの傍にやって来て、腕を伸ばしてきた。
「おまえたち、この方々は何もしていない。俺がテストをしただけだ。この間より反応が良くなったみたいで、安心した。この調子で頼むよ」
伯爵の言葉を聞くなり姿勢を正して一礼し、そそくさと出て行く。それを見てほっとし、ベニーの隣に並んだ。
袖を引っ張って揺さぶったというのに、それを無視して落ち着きなく首を動かす。
「ベニー!」
「一瞬でしたが、微かに匂いを感じたんです。野菊のような花の香りが……」
「だけどこの部屋は黄金ばかりで、草花はひとつも飾られていないぞ」
黄金の装飾品が溢れる部屋に足を踏み入れ、改めて周りを見渡しながら、ベニーが指摘した花の匂いを追いかけてみた。
「やっぱりそれらしきものはおろか、造花すらない」
「ええ、ですから違和感がございまして」
ベニーも僕と同じように鼻をくんくんさせながら、室内をあちこち眺める。
「男爵、何かお気に召すものでもあったのかい?」
突然背後からなされた問いかけに、びくっと躰が竦んでしまった。
「こっ、これはアーサー卿、勝手に失礼いたしました。まばゆい装飾が施された珍しい品ばかり置かれていたものですから、思わず引き寄せられてしまった次第です」
(背中に冷や汗を感じながら薄ら笑いを浮かべて、ペラペラと喋っている僕の姿は、伯爵の目にはさぞかし滑稽に映っているだろう)
「引き寄せられたと言ったのに、部屋に置かれているものには、一切触れていないようだが?」
「触れるなんてとんでもない。何かあった場合を考えたら、僕の資産では到底払いきれません」
「さすがは男爵、賢明な判断をされる。この部屋にある一部の骨董品は、ちょっとでも動かすと警報が作動するような仕組みになっていてね」
言いながら室内に入るなり、暖炉の上に並べてあった置物に素早く触れていく伯爵。
どの置物で警報が作動するのか分からなかったが、まるで子どもがいたずらをしているようなそれを、ベニーと一緒に黙って見つめた。すると数秒後には廊下から大きな足音が聞こえるや否や、ノックもなしにドアが大きく開かれる。
入ってきたのは、下働きをしているらしい若い男が3人。目に鋭さを含んでいる様子に驚き、慌ててベニーの影に隠れると、追いかけるように僕らの傍にやって来て、腕を伸ばしてきた。
「おまえたち、この方々は何もしていない。俺がテストをしただけだ。この間より反応が良くなったみたいで、安心した。この調子で頼むよ」
伯爵の言葉を聞くなり姿勢を正して一礼し、そそくさと出て行く。それを見てほっとし、ベニーの隣に並んだ。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる