BL小説短編集

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
87 / 329
抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい

10

しおりを挟む
「大変遺憾でございます。伯爵に先手を打たれましたね」

 皆の輪の中に戻っていく背中を見送っていると、忌々しさを表すような低い声で、ベニーが呟いた。

「それって、どういうことだ?」

「ローランド様が男爵になられて、はじめて出席した舞踏会ですが、顔を売るにしてもアーサー伯爵以外は、後々接点をもてばいいと考えておりました」

「僕の身の安全を最優先に考慮した、当初の打ち合わせはそうだったな」

「ですから目立たぬように、この大勢の出席者をかいくぐって途中で退席しても、まったく問題はなかったのですがーー」

「パーティが終わってから話し合いをすることで、アーサー卿は僕らの足を止めたということか」

 これまでのやりとりに疲弊したのもあり、持っているシャンパンを飲む気にはなれなかった。窓辺に置きっ放しになっているベニーのグラスの隣に、そっと並べる。

 窓ガラスに映る自分の顔は、生気のない朱髪の蝋人形みたいで、売りに出されても誰も手に取らない粗悪品に見えた。微笑んでみたところで、三流品が二流に上がる程度だろう。

「僕みたいな片田舎の男爵に手を出そうとする、アーサー卿の趣味がさっぱり理解できない」

「そのことはさておき、お耳に入れていただきたい情報がございます」

「何か面白い噂話を入手したのか?」

 眺めていた窓から振り返り、ベニーに向かって自嘲的に微笑した。

 笑いかけた僕の顔を赤茶色の瞳が捉えるものの、愛想笑いを浮かべることなく、硬い表情のまま返事をする。

「さきほどゼンデン子爵のお話を、伯爵自ら口にしておりましたが――」

「もしかして、アーサー卿とゼンデン子爵がデキていたとか?」

「いいえ。ゼンデン子爵の奥様と伯爵が、最近まで姦通していたという事実があったらしいです。いつからおふたりが付き合っていたなど、詳しいことはまだ分かっておりません」

「姦通ってお前、その言い方……」

 僕は慌てて人差し指を口元に当てたというのに、ベニーはしれっとした態度を崩さない。仕えている主人に手を出そうとしている相手だから、毛嫌いするのは当然なのかもしれないけれど。

「ベニー、口は禍の元になる。ここは公の場だ。気をつけないと、僕が悪く言われることにつながるんだぞ」

「申し訳ございません、以後気をつけます」

 姿勢を正して深く頭を下げた白金髪を見ながら、ベニーによってもたらされた情報をもとに、頭の中で整理してみる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...