BL小説短編集

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
86 / 329
抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい

しおりを挟む
 だが彼はただの執事――僕の立場でものを見たときと彼の立場では、間違いなく考え方が違ってくるだろう。

「執事殿、そこを退いてくれ。これでは男爵と、まともに話ができないじゃないか」

「見てのとおり、ローランド様はお話するつもりはありません。お引き取りください」

 さきほどよりも怒気を強めて、今にも食ってかかりそうになっているベニーの背中を、空いてる手で宥めるように触れてから、すっと隣に並んだ。

「ローランド様?」

「アーサー卿、取り乱してしまい、大変失礼いたしました。それで、話とは何でしょうか?」

「ローランド様が無理をなさって、話を聞く必要はございません。焦らなくてもそのうち、身の丈にあった話が舞い込んでくるはずです」

「ベニー、ただ話に耳を傾けるだけだ。今すぐ、どうこうなるわけでもない」

 自分に言い聞かせるように告げる。

 ベニーの助けを借りてこの場を何とかしても、やり手の伯爵の今後の行動を考えたら、違う方法でアクセスされる恐れがあることが予測できる。

 それなら今この場で対処すれば、後々面倒くさいことにならずに済むかもしれない。

「ああ、聡明な男爵で助かる。頭の固い執事殿には、ぜひとも柔軟な対応をしてもらいたいものだね」

「ベニーのその点については、屋敷に帰り次第対処しましょう。それでわざわざこの場で切り出すようなお話とは、いったい何でしょうか?」

(アーサー卿の話が、簡単にあしらえるものだといいが――)

「ゼンデン子爵の残された土地について、国王様にご相談を受けている最中でね」

「ゼンデン子爵は、父がかかった流行り病と同じ病気で、少し前に亡くなられたばかりでしたよね?」

 ベニーに目配せすると、小さく頷いた。

 亡くなられたゼンデン子爵は、30代前半の若さだった。奥様との間には子どもはおらず、父と同じ病に倒れたのがきっかけで、彼の経歴を知ることになった。

「ああ。このたびの税金の徴収を上手くやってのけた実績をもとに、男爵を国王様に推薦しようと思ってる。男爵が住んでいる場所と少々離れてはいるが、通えない距離ではないだろう?」

「僕を推薦!?」

「詳しい話は、パーティーが終わってからにしようか。最後まで楽しんでくれたまえ」

 そう言うと伯爵は目の高さまでグラスを掲げてから、素早く身を翻してしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...