83 / 329
抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい
6
しおりを挟む
「ベニー、アーサー卿のご好意を無駄にしたくはない。グラスを返してくれ」
「私がシャンパングラスをローランド様にお返しすれば、伯爵のご機嫌を損なうことなく、穏やかな時間をお過ごしできるでしょう。ですが――」
僕が持っているグラスの横に、ベニーが持っているグラスを隣り合わせた。
「執事として、ローランド・クリシュナ・アジャ様に誠心誠意お仕えすることを、私は生業としております。お屋敷で提供されているお飲み物と明らかに色の違うものや、通常よりも炭酸が抜けたものであるのを気づいているからこそ、このまま見過ごせませんでした。大切にお仕えしているローランド様に、そのようなものを口にしてほしくはないのでございます」
色の違いには気がついていたけれど、炭酸の泡まで目がいかなかった。よく見ると並んだグラスの中身は、まったく別なものにしか見えない。
「男爵、大変失敬した。照明の加減で、色が違って見えたと思ったものだから」
「謝らないでください。僕も同じ考えでしたので、あえて指摘しませんでした」
「ローランド様は、グラスに口をつけられたでしょうか?」
伯爵との会話を割って入るかたちで、ベニーに訊ねられた。これ以上伯爵の顔を潰さないように気を遣った、彼の配慮だろう。
「乾杯のあと、一口だけ飲んだ。口に入れた瞬間に渋みを感じたので、それ以上は口にできなかった」
僕のセリフを聞き終えないうちに、ベニーは持っていたグラスを目線まで上げて中身を確認後、口に含んだ。
目をつぶって飲んだものを味わうと、ふたたびグラスに口をつけて中身をすべて飲み干す。僕と同じように一口だけ飲むと思っていたので、目の前の行為に驚きを隠せなかった。
「いやはや、君の執事は大胆だな。酒に毒が仕込まれていたら、どうするつもりなんだ」
「ベニー、大丈夫なのか?」
「ええ、ご心配には及びません。仕事の傍ら、毒味役を仰せつかっているので、耐性をつけております」
にっこりと微笑んだベニーの顔色はいつもどおりで、ぐらついたりというリアクションもまったくない。
「私がシャンパングラスをローランド様にお返しすれば、伯爵のご機嫌を損なうことなく、穏やかな時間をお過ごしできるでしょう。ですが――」
僕が持っているグラスの横に、ベニーが持っているグラスを隣り合わせた。
「執事として、ローランド・クリシュナ・アジャ様に誠心誠意お仕えすることを、私は生業としております。お屋敷で提供されているお飲み物と明らかに色の違うものや、通常よりも炭酸が抜けたものであるのを気づいているからこそ、このまま見過ごせませんでした。大切にお仕えしているローランド様に、そのようなものを口にしてほしくはないのでございます」
色の違いには気がついていたけれど、炭酸の泡まで目がいかなかった。よく見ると並んだグラスの中身は、まったく別なものにしか見えない。
「男爵、大変失敬した。照明の加減で、色が違って見えたと思ったものだから」
「謝らないでください。僕も同じ考えでしたので、あえて指摘しませんでした」
「ローランド様は、グラスに口をつけられたでしょうか?」
伯爵との会話を割って入るかたちで、ベニーに訊ねられた。これ以上伯爵の顔を潰さないように気を遣った、彼の配慮だろう。
「乾杯のあと、一口だけ飲んだ。口に入れた瞬間に渋みを感じたので、それ以上は口にできなかった」
僕のセリフを聞き終えないうちに、ベニーは持っていたグラスを目線まで上げて中身を確認後、口に含んだ。
目をつぶって飲んだものを味わうと、ふたたびグラスに口をつけて中身をすべて飲み干す。僕と同じように一口だけ飲むと思っていたので、目の前の行為に驚きを隠せなかった。
「いやはや、君の執事は大胆だな。酒に毒が仕込まれていたら、どうするつもりなんだ」
「ベニー、大丈夫なのか?」
「ええ、ご心配には及びません。仕事の傍ら、毒味役を仰せつかっているので、耐性をつけております」
にっこりと微笑んだベニーの顔色はいつもどおりで、ぐらついたりというリアクションもまったくない。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる