BL小説短編集

相沢蒼依

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なおしたいコト

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 注がれるまなざしは、とても優しげなものだった。

「空き時間や移動時間を使って寝るのは、確かに悪いことじゃない。だがそれは一時しのぎなんだ。夜の睡眠は、昼間の疲れをとってくれるものだからね」

 俺が気落ちする前に、掴んだ手で自分に引き寄せて、きつく抱きしめてくれる。耳に聞こえる、克巳さんの鼓動がすごく心地いい。

 迷うことなく、大きな躰を抱きしめ返した。

「克巳さん、心配かけてごめんなさい」

「この後におこなわれる会合は、そこまで重要視するものじゃない。キャンセルするからね」

「本当に大丈夫?」

「事前に、二階堂に確認してみた。彼の言うことなら、素直に信じられるだろう?」

 有無を言わせない視線で、俺をじっと見つめる。反論できないその雰囲気に、顎を引きながら肩を竦めて両手を上げた。ここは素直に従うべく、克巳さんに負けましたというポーズをとるしかない。

「ここまで克巳さんの根回しがいいと、今後の仕事を丸投げしちゃいそうだな」

「秘書として、陵の仕事の補佐を完璧にこなさなければならないから、これは当然のことだよ。それに残念だが、そこまで甘やかすつもりはない。覚悟してくれ」

 小さく万歳している、俺の後頭部の髪を何度か梳いてから、背中をいたわるように叩かれた。

「か、覚悟って何を考えてるのさ……」

「本来なら19時からの会合を終えたら、そのまま直帰だったろ?」

「その予定だったけど」

「ここでの仕事を終えてフリーになった陵を、このまま俺が帰すと思ってるのかい?」

 耳元で告げられた克巳さんの声に、ゾクッとしたものを感じずにはいられない。

「も……もしかしてこのまま、克巳さんのマンションに拉致されちゃうのかな」

「さっき言ったろ。『早漏の治療をおこないたい』って」

「俺としては、せっかく久しぶりに克巳さんとエッチができるのに、そんな治療されたら、無駄なストレスがかかるかもしれないよ!」

 一緒にイキたいという理由で、以前とても痛いことをされた上に我慢を強いられ、泣きそうになった経緯がある。だからこそ治療を阻止すべく、いつも以上に声を大にして、ストレスがかかることをアピールしまくった。
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