BL小説短編集

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
50 / 329
両片想い

48

しおりを挟む
☆∮。・。・★。・。☆・∮。・★・。

 石川さんが出て行った瞬間、鉄平はがっくりとうな垂れながら、ものすごく小さな声で呟く。

「石川にアレを見られてたなんて、しくじった……。今後一切、壮馬に手を出しちゃいけないな」

「ここでしたキスもそうだけど、給湯室のキスも珍しかったもんね。いつもは、うまくあしらって終了なのに」

 悔しそうな顔で長机をバシバシ叩きまくる恋人に向かって、宥めるように話しかけた。それなのに、まったく効力がなかったらしい。

 ムスッとしたまま、俺の頬をぐりぐりする。八つ当たりもほどほどにしてほしい。

「坊ちゃんが全部悪いんだ。もっとしっかりしてくれたら、俺がこんなに苦労せずに済むんだぞ」

 ずっと長机を叩いて気が済んだのか、最後に大きな音を立てるようにグーで殴り、じろっと俺を睨む。

「え~、俺ってばしっかりしてると思う。社内にいる問題児をこの手で成敗した上に、悪さができないようにコントロールもバッチリやってのけたでしょ?」

(俺としては鉄平に、そんなに苦労させてるつもりはないのにな)

「……おまえ、石川が悪さをしていたという相談、いつの間に受けたんだ?」

「受けてないよ、あれはハッタリをかましただけ」

 舌を出して肩を竦めたら、眉間に皺を寄せて不快感をあらわにした。

「うわぁ、危ない橋を渡りやがった。どんな神経してるんだ」

「ついこの間入社したばかりの新人相手に、男の襲われたなんていう相談を、わざわざしないと思うけど」

「坊ちゃんはただの新人じゃない、社長の息子だろ。というかあのとき石川に論破されたら、どうするつもりだったんだ?」

 額に手を当ててうんうん唸る鉄平に、へらっと笑ってみせた。

「別に。なるようになるかなぁと」

「まったく……。考えもなしにそうやって突っ込んでいくから、目が離せないんだ」

 もしや俺が良かれと思ってやってることが、鉄平の苦労の種だったりするのか!?

「俺としては昔も今も、鉄平の視線をひとりじめしたいだけなんだよ」

「これ以上の我儘を言うな、さっさと戻るぞ。石川が戻ってるのに、俺たちが戻らないんじゃ示しがつかない」

 少しでも甘い雰囲気にもっていくべく、会話をそんな感じにしたというのに、ひとりでやってろと言わんばかりの冷たい態度を、思いっきりとられてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

処理中です...