BL小説短編集

相沢蒼依

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両片想い

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「……せっかく教えてやろうと思ったのに」

 壮馬に触れている両手を外そうとしたら、逃がさない勢いで握りしめられた。寄せられた顔から距離をとるべく、顎をくっと引く。

「嫌なんだよ。上司や先生じゃなく、恋人として教えてほしいから」

「恋人――」

「俺の片想いじゃないって知ることができて嬉しいところに、今までの関係をぶち込まれたら、思いっきり萎えるだろ?」

(そうか。コイツとは別れることを前提に付き合っていたから、俺の冷たい態度や距離感が、壮馬に片想いだと思わせていたんだ)

「俺は自分の気持ちをきちんと告げた。お前の気持ちを聞いてない」

「いつも言ってるだろ? もしかして忘れられちゃった感じ?」

 目の前にある壮馬の顔が、してやったりな感じに見えて、内心ムカついた。

 イライラするくらいにムカついているというのに、握りしめられた両手がじわりと熱くなる。もしかしたら、顔も赤くなっているかもしれない。こんなふうに壮馬に想いを言えなんて、強請ったことがなかったせい。

 俺が強請らなくても、ウザいくらいに壮馬は心の内を晒していた。だからどれくらい想っているのかは、分かっているつもりだけど。

「お前の想いなんか、忘却の彼方だ」

 まぶたを伏せて口にした瞬間に掴まれていた手を使って、ベッドの上に仰向けに押し倒される。

 突然のことに声を出せずに躰を強張らせたら、壮馬は颯爽と上に跨ってきた。

「忘れんなよ、俺の気持ち」

 俺が逃げないようにするためなのか、肩のつけ根を掴んで顔を寄せる。

「さっきされた、痛いキスで忘れたんだぞ」

 ふたたび痛いキスをされないようにと、睨みながら寸止めを試みた。

「謝っただろ」

「誠意が足りない」

 ぴしゃりと言い放った俺の短い返答に、苦虫を噛み潰したような表情をありありと浮かべて、「汚たねぇな、くそっ」なんて呟く。

「壮馬、どうした?」

 年上の俺を口で打ち負かそうなんて、百年早いんだよ。壮馬がもっと操縦法を勉強すれば、今まで以上の関係を築けるだろうな。

「あ~もう! ちゃんと誠意を見せるから教えてくれよ」

 片側の口角を歪ませて、心底嫌そうな顔で言葉をやっと告げた壮馬に向かって、満面の笑みで答える。

「分かってる。恋人としてな」
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