BL小説短編集

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
25 / 329
両片想い

23

しおりを挟む
 着ていた上着を座っていた椅子に放り投げて、俺の視界から逃げるようにバスルームに向かう大きな背中を、黙って見送るしかできなかった。

 できることなら見合いの話を、壮馬に聞かせたくはなかった。だけど、それ以上に知られたくなかったことは死守できた。

 見合いを断ったあとに告げられた、社長の言葉――それは俺の心を、うんと暗く沈ませるものだった。

『壮馬も白鷺課長くらいの年齢になったら、見合いをさせようかと考えているんだ。あの子に似合う女性が、いるといいんだけど……』

 親なら、子どもの幸せを願うのは当然のこと。見合いをさせてしっかり身を固め、結婚後の仲睦まじい姿を見たいんだろう。それだけじゃなく、そこから孫の存在も一緒に想像しているかもしれない。

「俺くらいの年齢になった壮馬くんは、今よりもずっと頼もしくなっているでしょうし、素敵な男性になっていると思います。案外見合いをする前に、綺麗な女性を射止めているかもしれませんね」

 淀みなく語った俺のあのときの顔は、どんな表情をしていたのかさっぱり分からない。だけど告げたことは、間違いなく当たっている自信があった。

 中学生の頃から彼の成長を見ているからこそ、否が応でも分かってしまう。親の七光りに負けないくらい光り輝き、誰もが憧れる存在になる。

 耳に聞こえてくるシャワーの水音を聞きながら、自分のグラスにワインを注いだ。先ほどまで壮馬が座っていた椅子に腰かけて、グラスの中身を一気に飲み干す。

(今頃シャワーを浴びながら、俺の見合いの話を忌々しく思っているんだろうな。将来、自分が見合いさせられることも知らずに――)

「くそっ……。どんなに好きでいても、いつかは別れなきゃいけない未来が数年後に訪れるっていうのに、諦めきれないなんて」

 空いたグラスに、ふたたびワインを溢れる手前まで注ぐ。手前に持ち上げて照明に照らしてみた。

 ガーネットのような濃い色の赤は、壮馬に想いを馳せた深みを表す色に思えた。

 別れを切り出すことはおろか諦めることもできず、立ち止まったままでいる己の恋に涙を流しながら、ボトルのワインをすべて空けてしまったのだった。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

男子学園でエロい運動会!

ミクリ21 (新)
BL
エロい運動会の話。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

処理中です...