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両片想い
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「無理して、格好つけようとするからだろ。しかも俺の手元をよく見ないでやるから、そんな雑な動きになるんだ」
くすくす笑いながら壮馬の手を取り、グラスを一緒に揺らしてやった。
「だってしょうがないだろ。課長の顔とか指先に、どうしても目がいくし」
「そうか……。でもそれじゃあいつまで経っても、覚えられないだろ」
触れていた手をそそくさと退けた瞬間、手首を掴まれた。触れられた皮膚から感じる壮馬の熱。シャワーを浴びたあとだというのに、熱くてどうにかなってしまいそうなものだった。
「課長から教わったことは忘れない。だけど俺に教えることがなくなったら、どこかに行ってしまうんじゃないかって、心配になるときがある」
「そんなこ、と」
「せっかく同じ会社に入って一緒にいられる時間が増えたのに、やけによそよそしいし、相変わらず目を合わせてくれないよな。たまにくっついてくれることもあるけど、なんつーか見えない線みたいのを引かれてる気がする」
壮馬の長い文句を聞きながら、グラスに入ってるワインを煽るように飲み干した。
「俺たちの関係、バレたら困るだろ」
掴まれたままでいる手首に、そっと視線を落とした。こうして触れられることも、実はとても嬉しい出来事のひとつになる。
今みたいに壮馬の傍にいられる幸せを感じて、会社だというのに妙にはしゃいだりウキウキしてしまうことがあった。あれはそう――お客さまのお茶出しに困った、大きな背中を見たときだ。
お茶を持ってこない壮馬に焦れて、新入社員の女の子を呼び寄せ、お客様の相手をしてもらった。
何やってるんだと思いつつ給湯室の扉を開けたら、小さな声で文句を言い続けながら、大量の茶っ葉を急須に入れるタイミングに遭遇した。
目の前にある大きな背中からシンクを覗いてみると、一度お茶を淹れたらしい形跡を発見。きちんと自分で飲んで確かめたからこそ、この茶っ葉の量らしい。それにしても正直なところ、ものすごい量だ……。
(ここは、しっかり者の恋人を褒めなければならない場面だろうが、お客様を待たせているので減点しなければ)
「坊ちゃん、俺の商談を壊すために、渋いお茶を淹れようとしてるだろ」
適度に厚みのある肩に顎をのせながら、耳元でぼやいてやった。
くすくす笑いながら壮馬の手を取り、グラスを一緒に揺らしてやった。
「だってしょうがないだろ。課長の顔とか指先に、どうしても目がいくし」
「そうか……。でもそれじゃあいつまで経っても、覚えられないだろ」
触れていた手をそそくさと退けた瞬間、手首を掴まれた。触れられた皮膚から感じる壮馬の熱。シャワーを浴びたあとだというのに、熱くてどうにかなってしまいそうなものだった。
「課長から教わったことは忘れない。だけど俺に教えることがなくなったら、どこかに行ってしまうんじゃないかって、心配になるときがある」
「そんなこ、と」
「せっかく同じ会社に入って一緒にいられる時間が増えたのに、やけによそよそしいし、相変わらず目を合わせてくれないよな。たまにくっついてくれることもあるけど、なんつーか見えない線みたいのを引かれてる気がする」
壮馬の長い文句を聞きながら、グラスに入ってるワインを煽るように飲み干した。
「俺たちの関係、バレたら困るだろ」
掴まれたままでいる手首に、そっと視線を落とした。こうして触れられることも、実はとても嬉しい出来事のひとつになる。
今みたいに壮馬の傍にいられる幸せを感じて、会社だというのに妙にはしゃいだりウキウキしてしまうことがあった。あれはそう――お客さまのお茶出しに困った、大きな背中を見たときだ。
お茶を持ってこない壮馬に焦れて、新入社員の女の子を呼び寄せ、お客様の相手をしてもらった。
何やってるんだと思いつつ給湯室の扉を開けたら、小さな声で文句を言い続けながら、大量の茶っ葉を急須に入れるタイミングに遭遇した。
目の前にある大きな背中からシンクを覗いてみると、一度お茶を淹れたらしい形跡を発見。きちんと自分で飲んで確かめたからこそ、この茶っ葉の量らしい。それにしても正直なところ、ものすごい量だ……。
(ここは、しっかり者の恋人を褒めなければならない場面だろうが、お客様を待たせているので減点しなければ)
「坊ちゃん、俺の商談を壊すために、渋いお茶を淹れようとしてるだろ」
適度に厚みのある肩に顎をのせながら、耳元でぼやいてやった。
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