BL小説短編集

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
21 / 329
両片想い

19

しおりを挟む
「無理して、格好つけようとするからだろ。しかも俺の手元をよく見ないでやるから、そんな雑な動きになるんだ」

 くすくす笑いながら壮馬の手を取り、グラスを一緒に揺らしてやった。

「だってしょうがないだろ。課長の顔とか指先に、どうしても目がいくし」

「そうか……。でもそれじゃあいつまで経っても、覚えられないだろ」

 触れていた手をそそくさと退けた瞬間、手首を掴まれた。触れられた皮膚から感じる壮馬の熱。シャワーを浴びたあとだというのに、熱くてどうにかなってしまいそうなものだった。

「課長から教わったことは忘れない。だけど俺に教えることがなくなったら、どこかに行ってしまうんじゃないかって、心配になるときがある」

「そんなこ、と」

「せっかく同じ会社に入って一緒にいられる時間が増えたのに、やけによそよそしいし、相変わらず目を合わせてくれないよな。たまにくっついてくれることもあるけど、なんつーか見えない線みたいのを引かれてる気がする」

 壮馬の長い文句を聞きながら、グラスに入ってるワインを煽るように飲み干した。

「俺たちの関係、バレたら困るだろ」

 掴まれたままでいる手首に、そっと視線を落とした。こうして触れられることも、実はとても嬉しい出来事のひとつになる。

 今みたいに壮馬の傍にいられる幸せを感じて、会社だというのに妙にはしゃいだりウキウキしてしまうことがあった。あれはそう――お客さまのお茶出しに困った、大きな背中を見たときだ。

 お茶を持ってこない壮馬に焦れて、新入社員の女の子を呼び寄せ、お客様の相手をしてもらった。

 何やってるんだと思いつつ給湯室の扉を開けたら、小さな声で文句を言い続けながら、大量の茶っ葉を急須に入れるタイミングに遭遇した。

 目の前にある大きな背中からシンクを覗いてみると、一度お茶を淹れたらしい形跡を発見。きちんと自分で飲んで確かめたからこそ、この茶っ葉の量らしい。それにしても正直なところ、ものすごい量だ……。

(ここは、しっかり者の恋人を褒めなければならない場面だろうが、お客様を待たせているので減点しなければ)

「坊ちゃん、俺の商談を壊すために、渋いお茶を淹れようとしてるだろ」

 適度に厚みのある肩に顎をのせながら、耳元でぼやいてやった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...