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ピロトーク:絡まる意図②

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「涼一っ!」

 ただいまを言わず家の中に入ると、俺に向かって飛び込んできた。その身体を無言のまま、ぎゅっと抱きしめる。

 周防のことが何とか上手くいき、嬉しさのあまりに言葉が出てこない。

 しばらく、抱き合ってから――

「……お前がいてくれてホントに助かった。じゃないと、あんなナイスなアドバイスなんて、思い浮かばなかったぞ」

 ありがとうの気持ちを込めて、頬にキスをしてやると、照れくさそうな顔をして、口元に笑みを浮かべた涼一。

「太郎くんの素性が分かっても、それ以外のことは全然知らなかったからね。驚愕する事実ばかりで一瞬、頭の中が真っ白になっちゃった」

「俺も周防からのメール読んでて、手が震えちまった。迷うことなく、涼一に転送したんだ」

「やっぱりね。ひとりで抱えるより、ふたりでって感じ?」

 結果オーライ、涼一の機転で乗り越えられた。

「今まで、修羅場に遭遇したことないからさ。どうすればいいか、さっぱり分からなかったぞ」

「それって僕が、修羅場に遭遇してるから切り抜けられるって、思われたのかな」

「え? いやいや涼一なら俺よりも、機転が利くと思って」

「その機転も経験からだよ。いろいろと、くぐり抜けてるからね」

 じと目をしながら俺を見上げる。何だろう、このモヤモヤした感情は。過去のことなんだから終わってるのに、嫉妬せずにはいられない。

 ……修羅場になるような、すごいことを、コイツはくぐり抜けてるのか。知りたいけど、知りたくない――

「なぁんてね。ウソだよ」

「は――?」

「修羅場体験なんて、全然してないから。だから周防さんの件が上手くいって、本当に良かったって、胸を撫で下ろしたんだ」

 その言葉に、俺も胸を撫で下ろす。

「郁也さん、僕がすごい過去の持ち主だと思ったでしょ?」

 ふふふと笑いながら、わざわざ俺の耳元で告げてくる。

「全然! 涼一にそんな過去があるなんて、考えてもいないし」

 目を逸らしながら言うと、頬っぺたをぎゅっとつねられてしまった。

「ウソが苦手な郁也さんっ。バレバレなんだからね、まったく――」

「涼一、結構痛い」

「ウソをついたバツ、きちんと受けてね」

 バツと言いながら、何故か俺にちゅっとキスをする。

「これが僕の、修羅場みたいなものだから」

「何だよそれ、俺が何かしてるって言いたいのか?」

 そう言ってから、しまったと思った。
 
「自覚ないトコが、郁也さんらしいよね」

「ごめん。今さっき自覚した。ご迷惑をおかけしてました」
 
 涼一には周防のことについて、めちゃくちゃ世話になってしまっているのを忘れていた。

 周防の前に太郎が現れなきゃ、それこそ俺らが修羅場になっていたかもしれない。

 頭を下げた俺にご褒美だよと言って、またキスをしてくれる。何だかんだ、優しいヤツなんだから。

「退院祝いの食事会、僕すっごく楽しみなんだ。太郎くんと話がしてみたくて」

 それはそれは、嬉しそうに言ってくれたのだが。

「だからと言って、あんまり仲良くなりすぎると、周防の機嫌が悪くなるからな。程ほどにしておけよ」

「とか何とか言っちゃって。郁也さんの機嫌も、悪くなるからでしょ?」

 むっ(`‐ω‐´)

「涼一お前は、自分の魅力が分ってないから、そういうことが言えるんだ。もっと警戒してくれよ」

「何言ってるの、郁也さんの美貌に比べたら僕なんて全然なのに。それに僕らの周りには、そんなことをする人なんていないでしょ。大丈夫だよ」

 そんなことを言った涼一を、不安げに見つめるしか出来なかった。見えない何かが、俺の中にいつもあって。

 それが何か表現出来れば、涼一も納得してくれるんだろうけど、上手く出来ないんだ。 

 確証のない不安が現実化するなんて、このときは思わなかった。少し前から涼一が、身近な人間に狙われていたなんて――
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