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ピロトーク:揺れる想い

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 郁也さんが変――

 帰ってきてから、一緒にご飯作ってるときも、食べてるときも、どこかうわの空だった。

「結構ニンニク入れてるから、強烈な味になってるのかと思ったのに、普通に大丈夫だね」

「……ああ」

「周防さんたちも今頃、食べてるかなぁ」

「そうだな……」

 口数が少ないのは、いつものことなれど、心ここにあらずな状態で、僕と会話するってどうなんだろ。

 内心怒りつつも、寂しさを感じた。

 きっと、何か心配事があっての行動なのかなぁ。僕に言えないのは、仕事上のトラブルか何かで、どうにも出来ないから。

 それとも――周防さんのところに行ってるんだから、そこで何かあったのかも。

 推理作家ではないけど、郁也さんのことに関しては、めきめきっと推理力が冴えるからね。その推理力を働かせるべく、ずっと郁也さんの様子を眺めていた。

 会話の弾まない食卓から、別々にお風呂に入って、現在向かい合わせで、リビングにいる。

 相変わらず思案した様子で、僕が注いだりんごジュースのコップを、くるくると回している郁也さん。反応が薄すぎて、心情を読み取ることが出来ないため、思いきって口を開いた。

「何か、悩みごとでもあるの?」

「んあ? その、な……今日周防のトコに行ったんだけど、こんな顔して診察室から、待合室にいる太郎を見ていたんだ」

 眉間にシワを寄せて、それはそれは難しそうな顔をする。

「えっと太郎くんはそのとき、何をしていたの?」

「車の絵を描いていた。すげぇ上手だった」

 なるほど、絵を描いてる太郎くんを、周防さんは遠くから見ていたのか。

「でもそれって、何だか可笑しいよね。どうして周防さんは、難しい顔をしていたのかな?」

「そこなんだよ。本来ならもっと、ぽわーんとか、うっとりしながら見るもんだろ」

 (;゚д゚)ェ. . . . . . .

 郁也さんの中では周防さんが、太郎くんのことを好きっていう、設定になっているんだ。

「親友があんな顔してるトコ、見てるだけでも辛くてな」

 郁也さん――優しい郁也さんだからこそ、そう考えるよね。

「恋仲を取り持つとか、そういうことじゃなくて、今よりも友好的な関係を少しでも築くべく、手助けくらいしてやりたいんだが」

「ダメだよ、そんなことしちゃ」

「だって、な……」

 親友の周防さんだからこそ、何とかしてあげたい気持ち、分からなくはない。でもそれをしちゃうと、もっと周防さんが傷つくことになるんだ。

 どうしよう。僕の口から、これを告げてしまって、いいものだろうか。じゃないと郁也さんが周防さんに、手を差し伸べちゃうかもしれない。

 手にしていたコップを静かにテーブルに置いて、一呼吸おいてみる。

 表面上、落ち着かせたというのに、未だグラついている心をそのままにして、ゆっくり口を開いた。

「あのね、周防さんのことなんだけど――」

「ああ、何だ?」

「ずっと、郁也さんのことが好きだったんだ……」

 僕の言葉に、くっと息を飲む。

「ちょっ、何言ってるんだ涼一。そんなの、ありえねぇだろ」

「……それがね、郁也さんが風邪で寝てる間、少しだけ話をしたんだ。周防さん言ってたよ、郁也さんのこと大事にするさ、好きなんだからって」

「それは親友として、大事って意味で――」

「そうじゃないっ! 僕が相手で良かったって言ったんだよ。寂しそうに微笑みながら……お願いだから認めてあげて。じゃなきゃ、周防さんが可哀想過ぎる」

 こんなに言ってるのに目を見開いて、信じられないという表情を、ありありと浮かべる。

 手に持っていた、りんごジュースの入ったコップを一瞬だけ握りしめて、一気に飲み干した郁也さん。

 僕は何だか居たたまれなくなり、俯いてしまった。俯いたら伸びた髪の毛が、さらさらと流れ落ち、困惑した顔を隠す。
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