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ピロトーク:郁也さんと周防さん②
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周防さんは13時過ぎに、家にやって来た。
「悪かったね。ホントはもっと早く来たかったんだけど、次々と患者さんが、立て込んじゃって」
「いえ、こっちこそ。お忙しいところ、有り難うございます」
ぺこりと頭を下げて、寝室へ導いた。
以前逢ったときは白衣姿で、お医者さんオーラがひしひしと漂っていたけど、私服の周防さんは郁也さん同様に、モデルさんみたい。
――キレイで格好いい感じ。
類は友を呼ぶって、このことなのかな。
「おい、こらっ! 不良患者め。何だその、ゾンビみたいな顔は」
足元に持っていたカバンを置き、寝ている郁也さんの顔を覗きこんだ。
「…あ、周防。ゲホゲホッ! 来てくれて、ありがとな……」
「麗しの美貌が台無しじゃないのさ。さっさとお尻を出しなさい、周防スペシャルをぶち込んでやるからー」
カバンから聴診器を取り出し、何故か郁也さんの額に当てる周防さん。何だか、コントを目の前で繰り広げられているような……このふたりって、いつもこんな感じなのかな?
「お尻はヤダ……ゴホゴホッ。もう変なこと言って、俺の元気度を測るの、やめてくれよ。涼一がお前のこと、不振がってるぞ。ゴホゴホッ!」
郁也さんはゆっくりと頭を上げて、寝室の隅っこから見ている僕に、わざわざ視線を飛ばしてくれた。
「あの、えっと、周防さんのことは信頼してますので。僕のインフルエンザを、瞬く間に楽にしてくれたですし」
郁也さんと出逢ったきっかけが、街中でぶっ倒れた僕を、周防さんの病院に運びこんでくれたから。なので医者としての腕前は、しっかりと分かっているつもりだ。
信頼してると言った僕を、周防さんはチラッと見てから、再び郁也さんの顔を見つめる。
気のせいだろうか――睨まれたような気がしちゃった。
「こんなになった、ももちんも悪いけど、傍で見ていて、どうして無理させたの?」
僕に向かって、怒ってるような口調で言い放つ。当然だよね、一緒に暮らしていてセーブ出来なかったのは、間違いなく僕が悪い。
「周防、それは俺が――」
「患者は黙ってなさい! どうなの、涼一くん?」
「無理はしないようにって、声はかけていました。だけど」
「ふざけんな! 言い訳すんなよ!」
突然の怒号に、ビクッと身体がすくんだ。男らしい周防さん、すっごくコワイ……
いつもはもっと、柔らかい口調で喋ってるから尚更、心にずばっと言葉が突き刺さるようだ。
「俺にとっても、桃瀬は大事なヤツなんだ。この時期は毎年、ぶっ倒れてるからな。だからこそ、こまめに連絡とって、注意を促していたさ。だけどな、俺の言うことよりも、アンタの言うことの方が聞くだろう? 恋人なんだし」
静かに怒る周防さんの言葉が、次々と胸に突き刺さる。大事な人が目の前で、苦しんでいる――それは僕だけじゃなく、周防さんだって辛いハズなんだ。
不甲斐ない自分が許せなくて両手の拳を、ぎゅっと握りしめることしか出来ない。
「今度からは、無理矢理にでも押し倒すなりして、休みを取らせろよ。ついでに連絡を寄こせ。往診ついでに、注射してやるから」
「はい……以後気をつけます。すみませんでした」
「周防ってば、そんなに怒るなよ。元はといえば、俺が悪いんだし。ゴホゴホッ! お前が涼一をそんな風に責めてる姿、見たくない」
涙目になりながら郁也さんが咳き込んでいるのに、周防さんは容赦なく、ぐいっと胸倉を掴んだ。
「それは、こっちのセリフだっ! 疲れ切ってるお前を見過ごしてるあのコが、俺は許せないんだよ。一番近くにいるのに、どうして――」
「ゲホゲホッ! すっ、周防ぅ……」
ヤバイよ、郁也さんが苦しそうだ。間に入って、止めなくちゃ――
慌てて足を一歩踏み出したとき。周防さんが郁也さんの身体に両腕を回して、ぎゅっと抱きしめた。
僕を背にしているので、周防さんの表情はどんなのか分からないけど、こっちを向いてる郁也さんが、何故だかえらく困った顔をしている。
「桃瀬、頼むから……これ以上、心配させないでくれ。心臓が止まるかと思った」
掠れた声が耳に響いた。まるで周防さんの気持ちが、沁み込んでくるみたい。
それは友達だから、心配したんだよね――友達、だから……?
まじまじと二人を見つめる僕と目が合い、ハッとして郁也さんが、周防さんの肩を押し返した。
「ホント心配させて、ゴホゴホッ、悪かった。これからはお前の言うことと、涼一の言うこと聞くから、勘弁してくれ」
「進んで、そうしてくれると助かる。早速注射するから、どっちかの腕、出して」
サッと身を翻し、足元に置いてあるカバンに、向かい合う周防さん。
「涼一くん……」
「は、はいっ!」
突然呼ばれて、ビクビクしてしまった。
「キツイこと言って悪かったね。これ、あとで飲ませてやって。気管支拡張剤とかモロモロ入ってる、薬だから」
カバンから取り出したそれを、恐々と受け取った。そんな僕の顔を、またまたじっと見つめてくる。
イケメンだからこその、目力だろうか。グサグサッと刺さってくるんですが――
「そんな頼りない顔しないの。安心してももちん、任せられないでしょ」
「すみませんっ! 頑張ります!!」
何をどう頑張ったらいいか分からなかったけど、顔を引き締めて、周防さんを見つめ返してみた。
「変わらないね、あの頃と……」
「え――!?」
「桃瀬と一緒にバスを待ちながら、ぼんやりと見ていたから。何だかそのまま、大きくなった感じに見える」
さっきとは違った穏やかな顔をして、僕をじっと見てくれた。せっかくの言葉なのに、記憶がないっていうのは、マイナスイメージだろうな。
「あの、すみません。僕、イマイチ覚えてなくて」
それでも何かを思い出そうと、必死になって考えてみる。
「周防、お前――」
郁也さんの声に思考を停止して、ぱっと顔を上げると、周防さんが嬉しそうに立ち上がった。
「ももちん、腕まくりは出来たの? すっごく痛いの、注射してあげるからね」
ふふふと笑いながら、消毒液が滴った脱脂綿を、郁也さんに見せつける。
「周防先生っ、痛くないのでお願いします」
「分かってるってば。だから赤ちゃん用の針を用意してあるし。グリグリッと差し込んで、注入してあげるからね」
「その表現やめてくれ、ゴホゴホッ、痛みが身にしみる感じする」
周防さんって人が、全然分からない――おどけて見せたと思ったら、突然怒り出して、僕を責めたり。
そりゃあ、責められることをした自分が悪いって分かってるけど。友達に対して、ここまで思いやれるだろうか?
というか――
周防さんの本当の姿は、どれなんだろう。隠してる様子がまるで、郁也さんへの想いに、通ずる気がしてならなかった。
「悪かったね。ホントはもっと早く来たかったんだけど、次々と患者さんが、立て込んじゃって」
「いえ、こっちこそ。お忙しいところ、有り難うございます」
ぺこりと頭を下げて、寝室へ導いた。
以前逢ったときは白衣姿で、お医者さんオーラがひしひしと漂っていたけど、私服の周防さんは郁也さん同様に、モデルさんみたい。
――キレイで格好いい感じ。
類は友を呼ぶって、このことなのかな。
「おい、こらっ! 不良患者め。何だその、ゾンビみたいな顔は」
足元に持っていたカバンを置き、寝ている郁也さんの顔を覗きこんだ。
「…あ、周防。ゲホゲホッ! 来てくれて、ありがとな……」
「麗しの美貌が台無しじゃないのさ。さっさとお尻を出しなさい、周防スペシャルをぶち込んでやるからー」
カバンから聴診器を取り出し、何故か郁也さんの額に当てる周防さん。何だか、コントを目の前で繰り広げられているような……このふたりって、いつもこんな感じなのかな?
「お尻はヤダ……ゴホゴホッ。もう変なこと言って、俺の元気度を測るの、やめてくれよ。涼一がお前のこと、不振がってるぞ。ゴホゴホッ!」
郁也さんはゆっくりと頭を上げて、寝室の隅っこから見ている僕に、わざわざ視線を飛ばしてくれた。
「あの、えっと、周防さんのことは信頼してますので。僕のインフルエンザを、瞬く間に楽にしてくれたですし」
郁也さんと出逢ったきっかけが、街中でぶっ倒れた僕を、周防さんの病院に運びこんでくれたから。なので医者としての腕前は、しっかりと分かっているつもりだ。
信頼してると言った僕を、周防さんはチラッと見てから、再び郁也さんの顔を見つめる。
気のせいだろうか――睨まれたような気がしちゃった。
「こんなになった、ももちんも悪いけど、傍で見ていて、どうして無理させたの?」
僕に向かって、怒ってるような口調で言い放つ。当然だよね、一緒に暮らしていてセーブ出来なかったのは、間違いなく僕が悪い。
「周防、それは俺が――」
「患者は黙ってなさい! どうなの、涼一くん?」
「無理はしないようにって、声はかけていました。だけど」
「ふざけんな! 言い訳すんなよ!」
突然の怒号に、ビクッと身体がすくんだ。男らしい周防さん、すっごくコワイ……
いつもはもっと、柔らかい口調で喋ってるから尚更、心にずばっと言葉が突き刺さるようだ。
「俺にとっても、桃瀬は大事なヤツなんだ。この時期は毎年、ぶっ倒れてるからな。だからこそ、こまめに連絡とって、注意を促していたさ。だけどな、俺の言うことよりも、アンタの言うことの方が聞くだろう? 恋人なんだし」
静かに怒る周防さんの言葉が、次々と胸に突き刺さる。大事な人が目の前で、苦しんでいる――それは僕だけじゃなく、周防さんだって辛いハズなんだ。
不甲斐ない自分が許せなくて両手の拳を、ぎゅっと握りしめることしか出来ない。
「今度からは、無理矢理にでも押し倒すなりして、休みを取らせろよ。ついでに連絡を寄こせ。往診ついでに、注射してやるから」
「はい……以後気をつけます。すみませんでした」
「周防ってば、そんなに怒るなよ。元はといえば、俺が悪いんだし。ゴホゴホッ! お前が涼一をそんな風に責めてる姿、見たくない」
涙目になりながら郁也さんが咳き込んでいるのに、周防さんは容赦なく、ぐいっと胸倉を掴んだ。
「それは、こっちのセリフだっ! 疲れ切ってるお前を見過ごしてるあのコが、俺は許せないんだよ。一番近くにいるのに、どうして――」
「ゲホゲホッ! すっ、周防ぅ……」
ヤバイよ、郁也さんが苦しそうだ。間に入って、止めなくちゃ――
慌てて足を一歩踏み出したとき。周防さんが郁也さんの身体に両腕を回して、ぎゅっと抱きしめた。
僕を背にしているので、周防さんの表情はどんなのか分からないけど、こっちを向いてる郁也さんが、何故だかえらく困った顔をしている。
「桃瀬、頼むから……これ以上、心配させないでくれ。心臓が止まるかと思った」
掠れた声が耳に響いた。まるで周防さんの気持ちが、沁み込んでくるみたい。
それは友達だから、心配したんだよね――友達、だから……?
まじまじと二人を見つめる僕と目が合い、ハッとして郁也さんが、周防さんの肩を押し返した。
「ホント心配させて、ゴホゴホッ、悪かった。これからはお前の言うことと、涼一の言うこと聞くから、勘弁してくれ」
「進んで、そうしてくれると助かる。早速注射するから、どっちかの腕、出して」
サッと身を翻し、足元に置いてあるカバンに、向かい合う周防さん。
「涼一くん……」
「は、はいっ!」
突然呼ばれて、ビクビクしてしまった。
「キツイこと言って悪かったね。これ、あとで飲ませてやって。気管支拡張剤とかモロモロ入ってる、薬だから」
カバンから取り出したそれを、恐々と受け取った。そんな僕の顔を、またまたじっと見つめてくる。
イケメンだからこその、目力だろうか。グサグサッと刺さってくるんですが――
「そんな頼りない顔しないの。安心してももちん、任せられないでしょ」
「すみませんっ! 頑張ります!!」
何をどう頑張ったらいいか分からなかったけど、顔を引き締めて、周防さんを見つめ返してみた。
「変わらないね、あの頃と……」
「え――!?」
「桃瀬と一緒にバスを待ちながら、ぼんやりと見ていたから。何だかそのまま、大きくなった感じに見える」
さっきとは違った穏やかな顔をして、僕をじっと見てくれた。せっかくの言葉なのに、記憶がないっていうのは、マイナスイメージだろうな。
「あの、すみません。僕、イマイチ覚えてなくて」
それでも何かを思い出そうと、必死になって考えてみる。
「周防、お前――」
郁也さんの声に思考を停止して、ぱっと顔を上げると、周防さんが嬉しそうに立ち上がった。
「ももちん、腕まくりは出来たの? すっごく痛いの、注射してあげるからね」
ふふふと笑いながら、消毒液が滴った脱脂綿を、郁也さんに見せつける。
「周防先生っ、痛くないのでお願いします」
「分かってるってば。だから赤ちゃん用の針を用意してあるし。グリグリッと差し込んで、注入してあげるからね」
「その表現やめてくれ、ゴホゴホッ、痛みが身にしみる感じする」
周防さんって人が、全然分からない――おどけて見せたと思ったら、突然怒り出して、僕を責めたり。
そりゃあ、責められることをした自分が悪いって分かってるけど。友達に対して、ここまで思いやれるだろうか?
というか――
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