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Love too late:募るキモチ

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 家に辿り着き、冷えた体を温めるべく、熱いシャワーを浴びて、そのままふて寝してしまった。イライラしながら寝たせいだろうか、変な夢を見る。うす暗くて、なにもない空間の中に、ひとりきりの自分が佇む。だけど――。

「ん? ネコ……」

 棒立ちしている俺の足の甲に、ちょっとだけお尻を乗せたネコがいた。どうして微妙に、お尻を乗せてるんだか……。

 子猫よりも大きいそのネコをよく見てやろうと、ゆっくりしゃがみ込んでみたら、バチッと視線が絡んだ。

 全身が真っ白なのに、耳から右目部分だけ囲うような、薄茶色の毛並みをしている特徴のあるネコ。目が合った瞬間、何故だか眉間にシワを寄せる感じが、どこかタケシ先生にソックリで、ほほ笑まずにはいられない。

 動物好きの俺は迷うことなく、ソイツの頭をガシガシ撫でてやる。

「おまえ、かわいい顔してんのに迷子か? 首輪もしてないのな」
「…………」

 緑色の大きな目で、じっと俺を見てから、頭を何度か振りかぶり、ゆっくりと歩いて離れていくのだが、至近距離で止まった。

 ――もしかして、触られたのがイヤだったのかな?

 首を傾げて近づいていき、腰を屈めて、素っ気ない背中をツンツン突いてみる。すぐさま俺の指に反応して、突いた場所をイライラしながら、ぺろぺろと舌で拭いはじめた。

「そっか。触られるのがイヤなのな、悪かった」

 ネコは俺の声に顔を上げ、キッと睨んだと思ったら前を向く。だけどそこから動こうとせずに、じっと佇んだままだった。

「あーあ、おまえともうまくいかない。タケシ先生ともうまくいかない。俺はどうすればいいんだろ」
「にゃぁー……」

 はじめて聞いた鳴き声はどこか、か細くて頼りなさげな感じに聞こえた。

「おまえも一人ぼっちなのか? 俺もなんだよ」
「…………」
「返事がほしいときに限ってしてくれないトコ、まんまソックリ。タケシ先生みたいだな」
「にゃぁー、にゃん……」

 なんだろ……なんとなくだけど、しょうがないヤツって言われた気がした。

「タケシ先生――」
「にゃっ」
「タケシ」

 俺の声をしっかり無視して、ネコは前足をぺろぺろ舐めはじめる。

「タケシ先生っ!」
「んにゃっ」

(コイツ……)

 迷うことなく小さな体を抱き上げ、優しくそっと抱きしめた。途端にネコは、カーッと声をあげて怒り出す。

「怒られようが爪で引っ掻かれようが、絶対に離してやんねぇ! タケシ先生っ……タケシ先生!」

 小さいタケシ先生を抱きしめ、背中をよしよしするみたいに、撫でまくっていたら、怒っていたネコも落ち着いたのか、じっとしてくれた。

「ぐるぐる……ぐるぐるる」

 耳元で聞こえる、ネコが喜んでるときに鳴らす、ぐるぐる音がする。

「なーんか、わかった気がした。おまえとの距離感がきっと、タケシ先生との距離感なんだな」
「にゃっ、にゃー」
「……学祭が終わったら謝りに行くよ。今まで付き合ったヤツと、比較して悪かったって。タケシ先生はタケシ先生なのにな。俺ってば、今頃気がつくなんてホント、バカ犬だ」
「そうだな。それがおまえらしいといえば、そうなんだけど」

 抱きしめていたネコが、突然喋りだす。ギョッとして手放すと、ネコが一気に白衣姿のタケシ先生に早変わりした。

「面倒くさい恋人だ。早く迎えに来いよ、待ってるから」

 一言だけ告げて、霧のように消えてしまう愛しい人の姿。

「あ……」

 せっかく逢えたのに――もっと触れたかったのに。切なく疼く、胸の痛みで目が覚めた。

「夢だったのか。本人に逢ったあとだから、こんな夢を見たのかな」

 時計を見ると、真夜中の午前一時過ぎ。雨が止んでることを、窓から差し込む月明かりが知らせてくれた。

「うん……。ちゃんと謝って、抱きしめてやらないと。あの人は、そういう人なんだから」

 俺のことを面倒くさいっていうけど、タケシ先生のほうが、もっと面倒くさい人なのにな。

 夢の中で見た、ネコとの距離感を思い出す。すぐに逢いに行って謝るのは簡単だけど、お互い頭を冷やし、これからの付き合いについて、今一度考える時間が必要なのかもしれない。だから学祭の準備期間は、ちょうどいい冷却期間になるだろう。

 そんなことを考え、もう一度逢えますようにと祈りながら、布団に入った。次に見る夢は仲直りして、一緒にいる夢がいいなと思いながら眠りにつく。
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