28 / 81
Love too late:防戦
9
しおりを挟む
「……なんだ?」
「自然気胸だって薬、夜に渡していただろ。あれって、眠剤なんじゃね?」
( ギクッ!)
「普段、寝つきが悪いのにあれを飲むと、異常にぐっすり寝られたから。まぁ二日目からは飲んだフリして、うまいこと飲まなかったけどさ」
「あれは、その……正当防衛みたいな」
しまった――医者と患者の信頼関係が、見事に崩れていくじゃないか。
「なので治療を拒否するから、あしからず!」
俺を放り出すように太郎は身を翻し、ひとりきりでさっさと高台から降りていく。どんどん遠ざかっていく背中を、黙って見つめることしかできなかった。
「まいったな、どうすりゃいいんだ……」
自分がしてしまった過ちを、今さら後悔しても、どうにもならない。家に帰る道中、太郎の背中を追いながら、今後の対策を考えてみた。
「患者である太郎の希望を、最優先に考えて恋人になってやる」
これが一番、手っ取り早いんだけど――太郎と恋人同士になった絵面を思い浮かべただけで、ぞわぞわっと悪寒が走る。報われない恋に嫌気がさし、無謀にもうんと年下の大学生に、手を出しちゃいました。
なぁんて、もうひとりの自分が耳元で囁くような気がする。
「違うっ、違うんだ。そうじゃない!」
頭を抱えながら歩く俺は、傍から見たらおかしな人にしか見えないだろうな。でも、頭を抱えずにはいられない難題だった。
(医者として、純粋に患者を助けたいだけ。人恋しくなったからって、身近にいる太郎なんか、絶対に好きになれないし)
正直、羨ましいと思った。桃瀬と涼一くんが相手を思い遣って、視線を合わせる姿――傍にいなくても、お互いに心を通わせていて、想い合っているのを垣間見て、すっごく悔しいと感じた。
そしてさっき、高台の崖で太郎が寄り添ってくれたとき、不覚にもそれほど不快に思えなくて。こんな自分に想いを寄せてくれることが、奇跡というかなんというか。
「桃瀬から太郎に、簡単にシフトチェンジできれば、問題は解決するんだけどね……」
深いため息をついて目の前を見てみると、病院前の塀に寄りかかり、ぼんやりと夜空を見上げる太郎がいた。そんなアイツを無視し、さっさと傍を通り過ぎて、玄関の鍵を手早く開け、中に入ろうとした刹那。
「んんっ!?」
一瞬なにが起こったのか、理解が追いつかなかった。ぐだぐだな思考と一緒に、無理やりな感じで、太郎に呼吸を奪われている自分。
背後から音もなく、太郎が俺の体をぎゅっと掴んで、掠めとるようにキスをした。時間にしたら、ほんの数秒だったと思う。呆気にとられた俺を上から見やり、へらっと意地悪く笑いかける。
「俺を騙したバツ。ご馳走様でした、タケシ先生」
言いながら脇をすり抜け、さっさと先に家の中に入って行く。
「おい……」
「やっぱ好きなヤツとキスするのって、すっげぇドキドキするんだな。しかもタケシ先生の唇、思ってたよりも柔らかくて、俺ってば溺れちゃうかと思った」
太郎は照れた表情を浮かべ、頬を染めながら言い放つと、さっさと二階に上がってしまった。俺はドキドキよりも――。
「イライラという感情が、沸々と湧きあがったぞ。手を出さないって、言った傍からおまえはっ!」
――すべては隙を見せた、自分が悪いのだが……。
またしても太郎にしてやられ、怒りながら頭を抱えるしかなかった。
「自然気胸だって薬、夜に渡していただろ。あれって、眠剤なんじゃね?」
( ギクッ!)
「普段、寝つきが悪いのにあれを飲むと、異常にぐっすり寝られたから。まぁ二日目からは飲んだフリして、うまいこと飲まなかったけどさ」
「あれは、その……正当防衛みたいな」
しまった――医者と患者の信頼関係が、見事に崩れていくじゃないか。
「なので治療を拒否するから、あしからず!」
俺を放り出すように太郎は身を翻し、ひとりきりでさっさと高台から降りていく。どんどん遠ざかっていく背中を、黙って見つめることしかできなかった。
「まいったな、どうすりゃいいんだ……」
自分がしてしまった過ちを、今さら後悔しても、どうにもならない。家に帰る道中、太郎の背中を追いながら、今後の対策を考えてみた。
「患者である太郎の希望を、最優先に考えて恋人になってやる」
これが一番、手っ取り早いんだけど――太郎と恋人同士になった絵面を思い浮かべただけで、ぞわぞわっと悪寒が走る。報われない恋に嫌気がさし、無謀にもうんと年下の大学生に、手を出しちゃいました。
なぁんて、もうひとりの自分が耳元で囁くような気がする。
「違うっ、違うんだ。そうじゃない!」
頭を抱えながら歩く俺は、傍から見たらおかしな人にしか見えないだろうな。でも、頭を抱えずにはいられない難題だった。
(医者として、純粋に患者を助けたいだけ。人恋しくなったからって、身近にいる太郎なんか、絶対に好きになれないし)
正直、羨ましいと思った。桃瀬と涼一くんが相手を思い遣って、視線を合わせる姿――傍にいなくても、お互いに心を通わせていて、想い合っているのを垣間見て、すっごく悔しいと感じた。
そしてさっき、高台の崖で太郎が寄り添ってくれたとき、不覚にもそれほど不快に思えなくて。こんな自分に想いを寄せてくれることが、奇跡というかなんというか。
「桃瀬から太郎に、簡単にシフトチェンジできれば、問題は解決するんだけどね……」
深いため息をついて目の前を見てみると、病院前の塀に寄りかかり、ぼんやりと夜空を見上げる太郎がいた。そんなアイツを無視し、さっさと傍を通り過ぎて、玄関の鍵を手早く開け、中に入ろうとした刹那。
「んんっ!?」
一瞬なにが起こったのか、理解が追いつかなかった。ぐだぐだな思考と一緒に、無理やりな感じで、太郎に呼吸を奪われている自分。
背後から音もなく、太郎が俺の体をぎゅっと掴んで、掠めとるようにキスをした。時間にしたら、ほんの数秒だったと思う。呆気にとられた俺を上から見やり、へらっと意地悪く笑いかける。
「俺を騙したバツ。ご馳走様でした、タケシ先生」
言いながら脇をすり抜け、さっさと先に家の中に入って行く。
「おい……」
「やっぱ好きなヤツとキスするのって、すっげぇドキドキするんだな。しかもタケシ先生の唇、思ってたよりも柔らかくて、俺ってば溺れちゃうかと思った」
太郎は照れた表情を浮かべ、頬を染めながら言い放つと、さっさと二階に上がってしまった。俺はドキドキよりも――。
「イライラという感情が、沸々と湧きあがったぞ。手を出さないって、言った傍からおまえはっ!」
――すべては隙を見せた、自分が悪いのだが……。
またしても太郎にしてやられ、怒りながら頭を抱えるしかなかった。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)
藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!?
手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~
みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。
成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪
イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)
皇帝陛下の精子検査
雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。
しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。
このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。
焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?
執着男に勤務先を特定された上に、なんなら後輩として入社して来られちゃった
パイ生地製作委員会
BL
【登場人物】
陰原 月夜(カゲハラ ツキヤ):受け
社会人として気丈に頑張っているが、恋愛面に関しては後ろ暗い過去を持つ。晴陽とは過去に高校で出会い、恋に落ちて付き合っていた。しかし、晴陽からの度重なる縛り付けが苦しくなり、大学入学を機に逃げ、遠距離を理由に自然消滅で晴陽と別れた。
太陽 晴陽(タイヨウ ハルヒ):攻め
明るく元気な性格で、周囲からの人気が高い。しかしその実、月夜との関係を大切にするあまり、執着してしまう面もある。大学卒業後、月夜と同じ会社に入社した。
【あらすじ】
晴陽と月夜は、高校時代に出会い、互いに深い愛情を育んだ。しかし、海が大学進学のため遠くに引っ越すことになり、二人の間には別れが訪れた。遠距離恋愛は困難を伴い、やがて二人は別れることを決断した。
それから数年後、月夜は大学を卒業し、有名企業に就職した。ある日、偶然の再会があった。晴陽が新入社員として月夜の勤務先を訪れ、再び二人の心は交わる。時間が経ち、お互いが成長し変わったことを認識しながらも、彼らの愛は再燃する。しかし、遠距離恋愛の過去の痛みが未だに彼らの心に影を落としていた。
更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です
X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl
制作秘話ブログ: https://piedough.fanbox.cc/
メッセージもらえると泣いて喜びます:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion
禁断の祈祷室
土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。
アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。
それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。
救済のために神は神官を抱くのか。
それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。
神×神官の許された神秘的な夜の話。
※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。
目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる