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Love too late:防戦
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「太郎、教えてくれないか。どうして今まで、俺に手を出さなかったんだ?」
勝手にベッドに忍び込んだり、隙があればいきなり抱きついてきたりと、いろいろしているのに、拒否ればそれ以上のことをしてこなかったのが、俺としては不思議だった。
「そりゃあ、好きになってもらいたかったから、さ」
「なんだそれ?」
「だってさタケシ先生、俺のこと嫌ってるじゃん。イヤなことして、それ以上嫌われたくないし、それに――」
「うん?」
「体だけの関係なんて、虚しいだけだしさ。俺としては、タケシ先生の全部が欲しいって思ってる」
肩に回されてる太郎の指先に力がこめられるのが、服越しに伝わってきた。
「大学生のガキが、使う言葉じゃないね。どんだけおまえ、遊び倒してるんだよ」
体だけの関係が虚しいなんて、普通の大学生が使うワケがない。呆れながらそのことについて指摘すると、太郎は視線を逸らして、そっぽを向いた。
「太郎、よく聞け……」
ここははっきりと、コイツの容姿について意見してやろう。俺の考えを知れば、諦めてくれるかも。なぁんていう辛辣なことを考え、口にしてやる。
「確かによく見れば、大人っぽいトコが多少はあると思うが、モテる要素があるとは、どうしても思えないんだよな」
体に触れたときに限って、なにかしら胸やけがしそうな甘い言葉を使ったりすることで、そういう場慣れしてるんだろうなと、容易に想像がついたのだが――。
「タケシ先生ってば、さりげなく俺のことを貶してるだろ。これでもいろいろあって、モテまくってるんだけどさ」
「いろいろねぇ……ツラだってサル顔だし、見たまんまチャラそうだし、無駄に押しだけ強いし、正直いいところがない」
そっぽを向いてる太郎をじと目で見てやると、対抗するように流し目をしながら、上から目線で俺を眺めた。
「来るもの拒まず、去るもの追わずってね。あ、サル顔だからじゃないぞ」
「なんだそれ、全然おもしろくない」
「それに押しが強いのは、タケシ先生だけ。初めてなんだよ、自分から迫ったのは」
「はっ、ウソ臭い話だな……」
一瞬だけ、胸がドキッとした。それを誤魔化すべく、あからさまに視線を逸らしたら、わざわざその視線を追いかけるように、太郎がそっと顔を寄せる。
「ウソじゃねぇよ。初めて感じた自分の気持ちを伝えたとき、すっげぇドキドキしたしさ。タケシ先生に出逢って、本当に良かったって思う。こんなに大変なことを知らないで、俺は今までいろんなヤツの気持ちを、散々弄んでしまったんだなって、いろいろ考えさせられて、後悔しまくったよ」
俺の顔を覗き込みながら告げた言葉に、なんだかわたわたする。
「ちょっと顔が近い。離れろ……」
「テレちゃって、すっげぇかわいい」
「サル顔のおまえ相手に、照れたりしないよ。それに自分の素性を明かさないヤツの言葉を、簡単に鵜呑みにできないしな」
太郎と視線を合わせずに、夜景を見ながら言い放ってやると、太郎は無言で顔の位置を元に戻した。
雰囲気は正直、あまりいい感じじゃないが、ここは思いきって、そろそろ告げたほうがいいだろう。
視線を夜景から、肩に回されている太郎の手に移す。代謝がいいのか、とてもあたたかい。服の上からでも、てのひらの熱がじわりと伝わってきた。
「タケシ先生、そろそろ好きになってくれた?」
「違うよ、おまえの病気のことだ」
「治療は受けないから……」
掴まれてる太郎の手に自分の手を重ねると、外されると思ったのか、痛いくらいにぎゅっと肩を掴む。あたたかくて力強いてのひらは、太郎が元気に生きてる証で、治療を受けなければ、この証が消えてなくなってしまう。
「わかっているんだろう? 自分が癌だって」
「ガァン」
「ふざけんなっ! 真面目に聞けよ!」
「……マジメにしていられるかよ。ふざけてでもいないと、気がおかしくなりそうだ」
太郎の手を、これでもかと握りしめてやる。
「痛みは伝わってるか? おまえが生きてる証拠だ」
ついでに反対の手で、太郎の頬をぎゅっとつねってやった。
「ちょっ、マジで痛いってば!」
ムッとしながら俺を見下ろす顔をほほ笑んで、じっと見つめ返してやる。そして頬をつねっていた手を、静かに首筋に移動させた。
「ここにある甲状腺というところが、癌に侵されているんだ」
「前立腺じゃなくてなにより……っ、いて!」
無言で太郎の頭を、ぐーで殴ってやる。コイツのバカさ加減には、ほとほと呆れ果てるしかない。現実逃避したい気持ちは、わからなくもないけれど。
「甲状腺というのは、ホルモンを出す器官で、子どもの頃には成長ホルモンを出し、大人になったら新陳代謝の調節をするという、大事な働きをしてくれるんだ」
「へえ、そこが病気になったら大変だな」
「人の体に、不必要な器官なんてないものだから。バランスよく、それぞれが働いているものさ」
たとえその器官が、なんらかの病気で機能できなくなったとしても、補ってくれる臓器はあるものだし、薬でどうにかなる。
「癌にも、いろいろパターンがある。インフルエンザにも、A型やB型があるだろう?」
「そうだな……」
「おまえの癌のパターンは、おそらく進行性の早いものじゃないと、俺は思ってる。きちんと治療をすれば、二十年の生存率は、八割以上というデータもあるくらい、治癒率は高いんだよ」
――まずは細胞診をすべく、いろいろ検査をしたい。
「早めに手術をして、甲状腺の半分……いや3分の1くらい残すことができれば、ホルモン剤の薬を飲まなくても済む」
「俺、実はちょっとだけ、タケシ先生を信用してないトコがあるんだ」
言いながら、疑いの眼で俺の顔を見た太郎。
勝手にベッドに忍び込んだり、隙があればいきなり抱きついてきたりと、いろいろしているのに、拒否ればそれ以上のことをしてこなかったのが、俺としては不思議だった。
「そりゃあ、好きになってもらいたかったから、さ」
「なんだそれ?」
「だってさタケシ先生、俺のこと嫌ってるじゃん。イヤなことして、それ以上嫌われたくないし、それに――」
「うん?」
「体だけの関係なんて、虚しいだけだしさ。俺としては、タケシ先生の全部が欲しいって思ってる」
肩に回されてる太郎の指先に力がこめられるのが、服越しに伝わってきた。
「大学生のガキが、使う言葉じゃないね。どんだけおまえ、遊び倒してるんだよ」
体だけの関係が虚しいなんて、普通の大学生が使うワケがない。呆れながらそのことについて指摘すると、太郎は視線を逸らして、そっぽを向いた。
「太郎、よく聞け……」
ここははっきりと、コイツの容姿について意見してやろう。俺の考えを知れば、諦めてくれるかも。なぁんていう辛辣なことを考え、口にしてやる。
「確かによく見れば、大人っぽいトコが多少はあると思うが、モテる要素があるとは、どうしても思えないんだよな」
体に触れたときに限って、なにかしら胸やけがしそうな甘い言葉を使ったりすることで、そういう場慣れしてるんだろうなと、容易に想像がついたのだが――。
「タケシ先生ってば、さりげなく俺のことを貶してるだろ。これでもいろいろあって、モテまくってるんだけどさ」
「いろいろねぇ……ツラだってサル顔だし、見たまんまチャラそうだし、無駄に押しだけ強いし、正直いいところがない」
そっぽを向いてる太郎をじと目で見てやると、対抗するように流し目をしながら、上から目線で俺を眺めた。
「来るもの拒まず、去るもの追わずってね。あ、サル顔だからじゃないぞ」
「なんだそれ、全然おもしろくない」
「それに押しが強いのは、タケシ先生だけ。初めてなんだよ、自分から迫ったのは」
「はっ、ウソ臭い話だな……」
一瞬だけ、胸がドキッとした。それを誤魔化すべく、あからさまに視線を逸らしたら、わざわざその視線を追いかけるように、太郎がそっと顔を寄せる。
「ウソじゃねぇよ。初めて感じた自分の気持ちを伝えたとき、すっげぇドキドキしたしさ。タケシ先生に出逢って、本当に良かったって思う。こんなに大変なことを知らないで、俺は今までいろんなヤツの気持ちを、散々弄んでしまったんだなって、いろいろ考えさせられて、後悔しまくったよ」
俺の顔を覗き込みながら告げた言葉に、なんだかわたわたする。
「ちょっと顔が近い。離れろ……」
「テレちゃって、すっげぇかわいい」
「サル顔のおまえ相手に、照れたりしないよ。それに自分の素性を明かさないヤツの言葉を、簡単に鵜呑みにできないしな」
太郎と視線を合わせずに、夜景を見ながら言い放ってやると、太郎は無言で顔の位置を元に戻した。
雰囲気は正直、あまりいい感じじゃないが、ここは思いきって、そろそろ告げたほうがいいだろう。
視線を夜景から、肩に回されている太郎の手に移す。代謝がいいのか、とてもあたたかい。服の上からでも、てのひらの熱がじわりと伝わってきた。
「タケシ先生、そろそろ好きになってくれた?」
「違うよ、おまえの病気のことだ」
「治療は受けないから……」
掴まれてる太郎の手に自分の手を重ねると、外されると思ったのか、痛いくらいにぎゅっと肩を掴む。あたたかくて力強いてのひらは、太郎が元気に生きてる証で、治療を受けなければ、この証が消えてなくなってしまう。
「わかっているんだろう? 自分が癌だって」
「ガァン」
「ふざけんなっ! 真面目に聞けよ!」
「……マジメにしていられるかよ。ふざけてでもいないと、気がおかしくなりそうだ」
太郎の手を、これでもかと握りしめてやる。
「痛みは伝わってるか? おまえが生きてる証拠だ」
ついでに反対の手で、太郎の頬をぎゅっとつねってやった。
「ちょっ、マジで痛いってば!」
ムッとしながら俺を見下ろす顔をほほ笑んで、じっと見つめ返してやる。そして頬をつねっていた手を、静かに首筋に移動させた。
「ここにある甲状腺というところが、癌に侵されているんだ」
「前立腺じゃなくてなにより……っ、いて!」
無言で太郎の頭を、ぐーで殴ってやる。コイツのバカさ加減には、ほとほと呆れ果てるしかない。現実逃避したい気持ちは、わからなくもないけれど。
「甲状腺というのは、ホルモンを出す器官で、子どもの頃には成長ホルモンを出し、大人になったら新陳代謝の調節をするという、大事な働きをしてくれるんだ」
「へえ、そこが病気になったら大変だな」
「人の体に、不必要な器官なんてないものだから。バランスよく、それぞれが働いているものさ」
たとえその器官が、なんらかの病気で機能できなくなったとしても、補ってくれる臓器はあるものだし、薬でどうにかなる。
「癌にも、いろいろパターンがある。インフルエンザにも、A型やB型があるだろう?」
「そうだな……」
「おまえの癌のパターンは、おそらく進行性の早いものじゃないと、俺は思ってる。きちんと治療をすれば、二十年の生存率は、八割以上というデータもあるくらい、治癒率は高いんだよ」
――まずは細胞診をすべく、いろいろ検査をしたい。
「早めに手術をして、甲状腺の半分……いや3分の1くらい残すことができれば、ホルモン剤の薬を飲まなくても済む」
「俺、実はちょっとだけ、タケシ先生を信用してないトコがあるんだ」
言いながら、疑いの眼で俺の顔を見た太郎。
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