恋わずらいの小児科医、ハレンチな駄犬に執着されています

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
25 / 129
Love too late:防戦

しおりを挟む
***

(――すっげぇ、恥ずかしい)

 気づいたときには号泣してしまい、どうにも涙が止まらなかった。年甲斐もなく声をあげて泣いたら、意外とスッキリしたものの、この体勢から放れるタイミングがまったく掴めない!

(落ち着け、俺。コイツから距離をとる順序を、冷静になって考えよう! まずは上半身を起こして椅子を反転させてから、勢いよく背中を向ける。そうすればこの情けない泣き顔が、アイツには見られないだろう)

 そしてすかさず立ち上がって白衣を脱ぎ捨て、素早く二階に移動し、何事もなかったように夕飯の支度をする。これなら太郎との接触が、極力防げること間違いなし!

(よし、1・2の3!)

 太郎の体に縋りついていた手を使い、素早く上半身を起こして、椅子が一周しそうな勢いで椅子を反転させた。そして両手で涙を拭って視界を確保してから、すみやかに立ち上がる。

「タケシ先生、もう大丈夫なのか?」
「ああ……」

 自分が出した掠れた声が、さらなる羞恥心をぶわっと煽った。自動的に、頬に熱を持つ始末。本当に恥ずかしすぎて、顔をあげられない。

「肩、まだ震えてる。無理すんなよ」
「ち、違っ! これは――」

 本当に違うんだ。恥ずかしさに耐えようとしたら変に力が入って、体が震えているだけで……。

 背中を向けたまま答える俺のことを、後ろからぎゅっと抱きしめた太郎。

「こら! 勝手に抱きつくなっ」

 上半身に回された太郎の腕が腹の辺りだったので、自身の腕がフリーに使える。反射的に太郎の顔の辺りを裏拳で殴ったら、簡単にクリーンヒットした。

「あだっ!」
「図に乗るのも、いい加減にしろっ。バカ犬が!」

 殴ったことにより、自由になった身でイライラしながら白衣を脱ぎ捨て、乱暴に椅子にかける。

 コイツのせいで、すべての計画がうまくいかない。非常にムカつくじゃないか。

「タケシ先生っ」
「あ?」
「いつも通りじゃん」

 告げられた言葉にハッとする。

 そういえば、いつの間に――なんだかよくわからない内に、ムカつきすぎてしまったせいで、元に戻っていた。

「いつもと違うのは、綺麗な顔が台無しになるくらい、まぶたが腫れてるってことだな」

 コイツ、気にしてることを、よくもまぁズケズケと言ってくれるのな。

 かくて俺は、無言のまま太郎に右ストレートを食らわせ、苛立ちを表しながら二階に駆け上がった。だけど殴りつけた威力を半減してやることは、きちんと忘れていない。いつもの自分を取り戻してくれた、俺からの礼だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

俺達の関係

すずかけあおい
BL
自分本位な攻め×攻めとの関係に悩む受けです。 〔攻め〕紘一(こういち) 〔受け〕郁也(いくや)

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

処理中です...