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Love too late:防戦
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「自分のペースを乱されるのって、ホントつらいわ……」
太郎の存在や視線を華麗にスルーできればいいのに、彼が患っている病気の兼ね合いもあってそうはいかず、いつもどおり仕事ができなかった。
しかもメールで送られてきた、太郎の血液検査の結果が想像以上に悪かった。
(予想してた値、やっぱ出ちゃったね。サイログロブリン抗体、考えていた以上に結構高いなぁ)
これにより病気の疑惑が、確信に変わった。あとは細胞を摂取して、それがどのパターンなのか、もっと詳しく検査をおこなえば、これからの治療方針がスムーズに立てられる。
ふぅとため息をついてパソコンと睨めっこしていたら、聞き慣れた声が耳に届いた。
「ちーっす、土曜はどうもな」
いつものように、爽やかな笑顔で桃瀬が診察室に入ってきた。
「ももちん、顔色もかなり良くなって、元気になったみたいだね」
土曜のときとは、雲泥の差だ。
「そういうおまえは、大丈夫なのかって顔をしてるぞ。今日、忙しかったのか?」
桃瀬は眉間にシワを寄せ、俺の額に手をそっと当てる。なんとなく気恥ずかしくて視線を伏せ、顎を引いてしまった。
「ちょっと疲れが溜まっただけ。それよりもどうしたの? 遠足に行くのにちょうど良さそうな、大きなリュックを持ってきて」
自分の不調から話題転換すべく、目に映ったものを指摘してみると、桃瀬は思い出しましたという表情を浮かべる。
「おおっ、そうそう。病院前でいきなり、女のコに手渡されたんだ。なんでも、太郎の服が入ってるらしいぞ」
「なんだって!? その女のコは、どこに行ったの?」
思わず桃瀬の腕に、ぎゅっとしがみついてしまった。
「悪い、帰っちゃった。名前を聞いてみたんだが、太郎の妹って名乗るだけで、それ以上なにも言わなかったんだ」
「そう……どんな女のコだった?」
「ちょっと待ってろよ、こんな感じだった」
桃瀬は手に持っていたリュックをそっと足元に置き、ポケットに入れてるメモ帳を取り出して、手早くサラサラとなにかを描きだした。
(ああ、はじまった――桃瀬の得意技。どれも同じ顔になるという、不気味なイラスト……)
「ももちん、期待はしてないからね」
「なんだよ周防、人が真面目に描いてやってるのに。ほらよ、できたぞ♪」
押し付けるように渡されたメモ帳を見て、内心ため息をつき固まるしかない。
「やっぱりね。進化してると期待しなくて、本当によかった」
「なに言ってるんだ、すっげぇ似てるぞ」
俺の言葉に、桃瀬はムッとした。だってこの絵じゃ、しょうがない。頭と目が異常に大きい上に、手が長いのに足が極端に短くなっているこの絵は、どこから見ても人間に見えないのだから。
「太郎! ちょっとおいで!」
診察室から廊下に顔を出して、太郎を呼びつけてから肩をすくめ、診察室の椅子に戻ったら、太郎がひょっこりと顔を出した。
「わんわん、用事はなんですか~?」
寝ぼけ眼で現れた太郎が、俺の目の前にいる桃瀬に鋭い視線を送る。突然現れたイケメンに、どうやらおもしろくない様子だった。
「タケシ先生……誰、この人?」
「俺の親友の桃瀬。あのさ、この顔に見覚えある?」
手渡したメモ帳を差し出し太郎に見せると、腹を抱えて笑いだした。
「なっなんだよ、これ! こんな人間がいたら今頃、テレビに出まくってるだろ! どう見たって、宇宙人じゃないか!」
「悪いが太郎、俺はこの絵を見てピンときたんだ。たぶんこのコは、おまえの妹だ。よく見ると、どことなく雰囲気が似ているからな」
長年桃瀬と付き合って、ずっと彼の描く絵を見ているゆえに、想像力がめっちゃ鍛えられた。
「タケシ先生、この絵を描いたのはもしかして――」
俺は無言で、桃瀬を指差してやった。
「この人が描いたのか!? なんか意外かも……」
ゲーッという表情を浮かべた太郎を、桃瀬はショックな表情を浮かべ、縋るようなまなざしで俺を眺めた。雲行きが悪そうな居心地を感じたので、ここは華麗に話題転換してやる。
「桃瀬紹介するね。コイツは病院前でわざわざ倒れてきた、面倒くさい患者なの。しかも自分の素性を、明かしてくれなくてさ。なので俺が適当に名前をつけたんだよ」
本当に面倒くさいヤツをアピールすべく、丁寧な紹介をしてやった。
「周防、大丈夫なのか? 防犯上のこととか……いろいろさ」
俺の紹介に、考えることがあったのだろう。桃瀬は心配そうな顔で、わざわざ訊ねる。その優しさを目の当たりにして、思わずほほ笑んでしまった。
「なんとかね。世間一般常識がなさ過ぎて、躾るのにちょっとだけ、てこずっているけど」
「……世間一般常識がない? おまえいくつなんだ?」
「一応、これでも大学生だけど……」
「えっ? 高校生じゃなく?」
意外そうな目をして太郎を見た桃瀬に、内心クスッと笑ってしまう。
「なんだよその目は! ああ、どうせ俺は一般常識がないお子様ですよ」
桃瀬と自分を比べるな。比べるレベルじゃないことくらい、見ただけでわかるだろうよ。
「今まで俺がなにを聞いても、コイツは素性を明かさなかったのに、さすがは桃瀬だな。ほら太郎、着替えだってさ」
呆れながら女のコが持ってきたリュックを太郎に手渡すと、その腕で俺の体を荷物ごと引き寄せ、いきなりホールドされてしまった。
「自分のペースを乱されるのって、ホントつらいわ……」
太郎の存在や視線を華麗にスルーできればいいのに、彼が患っている病気の兼ね合いもあってそうはいかず、いつもどおり仕事ができなかった。
しかもメールで送られてきた、太郎の血液検査の結果が想像以上に悪かった。
(予想してた値、やっぱ出ちゃったね。サイログロブリン抗体、考えていた以上に結構高いなぁ)
これにより病気の疑惑が、確信に変わった。あとは細胞を摂取して、それがどのパターンなのか、もっと詳しく検査をおこなえば、これからの治療方針がスムーズに立てられる。
ふぅとため息をついてパソコンと睨めっこしていたら、聞き慣れた声が耳に届いた。
「ちーっす、土曜はどうもな」
いつものように、爽やかな笑顔で桃瀬が診察室に入ってきた。
「ももちん、顔色もかなり良くなって、元気になったみたいだね」
土曜のときとは、雲泥の差だ。
「そういうおまえは、大丈夫なのかって顔をしてるぞ。今日、忙しかったのか?」
桃瀬は眉間にシワを寄せ、俺の額に手をそっと当てる。なんとなく気恥ずかしくて視線を伏せ、顎を引いてしまった。
「ちょっと疲れが溜まっただけ。それよりもどうしたの? 遠足に行くのにちょうど良さそうな、大きなリュックを持ってきて」
自分の不調から話題転換すべく、目に映ったものを指摘してみると、桃瀬は思い出しましたという表情を浮かべる。
「おおっ、そうそう。病院前でいきなり、女のコに手渡されたんだ。なんでも、太郎の服が入ってるらしいぞ」
「なんだって!? その女のコは、どこに行ったの?」
思わず桃瀬の腕に、ぎゅっとしがみついてしまった。
「悪い、帰っちゃった。名前を聞いてみたんだが、太郎の妹って名乗るだけで、それ以上なにも言わなかったんだ」
「そう……どんな女のコだった?」
「ちょっと待ってろよ、こんな感じだった」
桃瀬は手に持っていたリュックをそっと足元に置き、ポケットに入れてるメモ帳を取り出して、手早くサラサラとなにかを描きだした。
(ああ、はじまった――桃瀬の得意技。どれも同じ顔になるという、不気味なイラスト……)
「ももちん、期待はしてないからね」
「なんだよ周防、人が真面目に描いてやってるのに。ほらよ、できたぞ♪」
押し付けるように渡されたメモ帳を見て、内心ため息をつき固まるしかない。
「やっぱりね。進化してると期待しなくて、本当によかった」
「なに言ってるんだ、すっげぇ似てるぞ」
俺の言葉に、桃瀬はムッとした。だってこの絵じゃ、しょうがない。頭と目が異常に大きい上に、手が長いのに足が極端に短くなっているこの絵は、どこから見ても人間に見えないのだから。
「太郎! ちょっとおいで!」
診察室から廊下に顔を出して、太郎を呼びつけてから肩をすくめ、診察室の椅子に戻ったら、太郎がひょっこりと顔を出した。
「わんわん、用事はなんですか~?」
寝ぼけ眼で現れた太郎が、俺の目の前にいる桃瀬に鋭い視線を送る。突然現れたイケメンに、どうやらおもしろくない様子だった。
「タケシ先生……誰、この人?」
「俺の親友の桃瀬。あのさ、この顔に見覚えある?」
手渡したメモ帳を差し出し太郎に見せると、腹を抱えて笑いだした。
「なっなんだよ、これ! こんな人間がいたら今頃、テレビに出まくってるだろ! どう見たって、宇宙人じゃないか!」
「悪いが太郎、俺はこの絵を見てピンときたんだ。たぶんこのコは、おまえの妹だ。よく見ると、どことなく雰囲気が似ているからな」
長年桃瀬と付き合って、ずっと彼の描く絵を見ているゆえに、想像力がめっちゃ鍛えられた。
「タケシ先生、この絵を描いたのはもしかして――」
俺は無言で、桃瀬を指差してやった。
「この人が描いたのか!? なんか意外かも……」
ゲーッという表情を浮かべた太郎を、桃瀬はショックな表情を浮かべ、縋るようなまなざしで俺を眺めた。雲行きが悪そうな居心地を感じたので、ここは華麗に話題転換してやる。
「桃瀬紹介するね。コイツは病院前でわざわざ倒れてきた、面倒くさい患者なの。しかも自分の素性を、明かしてくれなくてさ。なので俺が適当に名前をつけたんだよ」
本当に面倒くさいヤツをアピールすべく、丁寧な紹介をしてやった。
「周防、大丈夫なのか? 防犯上のこととか……いろいろさ」
俺の紹介に、考えることがあったのだろう。桃瀬は心配そうな顔で、わざわざ訊ねる。その優しさを目の当たりにして、思わずほほ笑んでしまった。
「なんとかね。世間一般常識がなさ過ぎて、躾るのにちょっとだけ、てこずっているけど」
「……世間一般常識がない? おまえいくつなんだ?」
「一応、これでも大学生だけど……」
「えっ? 高校生じゃなく?」
意外そうな目をして太郎を見た桃瀬に、内心クスッと笑ってしまう。
「なんだよその目は! ああ、どうせ俺は一般常識がないお子様ですよ」
桃瀬と自分を比べるな。比べるレベルじゃないことくらい、見ただけでわかるだろうよ。
「今まで俺がなにを聞いても、コイツは素性を明かさなかったのに、さすがは桃瀬だな。ほら太郎、着替えだってさ」
呆れながら女のコが持ってきたリュックを太郎に手渡すと、その腕で俺の体を荷物ごと引き寄せ、いきなりホールドされてしまった。
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