上 下
22 / 22
Love too late:防戦

3

しおりを挟む
***

「自分のペースを乱されるのって、ホントつらいわ……」

 太郎の存在や視線を華麗にスルーできればいいのに、彼が患っている病気の兼ね合いもあってそうはいかず、いつもどおり仕事ができなかった。

 しかもメールで送られてきた、太郎の血液検査の結果が想像以上に悪かった。

(予想してた値、やっぱ出ちゃったね。サイログロブリン抗体、考えていた以上に結構高いなぁ)

 これにより病気の疑惑が、確信に変わった。あとは細胞を摂取して、それがどのパターンなのか、もっと詳しく検査をおこなえば、これからの治療方針がスムーズに立てられる。

 ふぅとため息をついてパソコンと睨めっこしていたら、聞き慣れた声が耳に届いた。

「ちーっす、土曜はどうもな」

 いつものように、爽やかな笑顔で桃瀬が診察室に入ってきた。

「ももちん、顔色もかなり良くなって、元気になったみたいだね」

 土曜のときとは、雲泥の差だ。

「そういうおまえは、大丈夫なのかって顔をしてるぞ。今日、忙しかったのか?」

 桃瀬は眉間にシワを寄せ、俺の額に手をそっと当てる。なんとなく気恥ずかしくて視線を伏せ、顎を引いてしまった。

「ちょっと疲れが溜まっただけ。それよりもどうしたの? 遠足に行くのにちょうど良さそうな、大きなリュックを持ってきて」

 自分の不調から話題転換すべく、目に映ったものを指摘してみると、桃瀬は思い出しましたという表情を浮かべる。

「おおっ、そうそう。病院前でいきなり、女のコに手渡されたんだ。なんでも、太郎の服が入ってるらしいぞ」 
「なんだって!? その女のコは、どこに行ったの?」

 思わず桃瀬の腕に、ぎゅっとしがみついてしまった。

「悪い、帰っちゃった。名前を聞いてみたんだが、太郎の妹って名乗るだけで、それ以上なにも言わなかったんだ」
「そう……どんな女のコだった?」
「ちょっと待ってろよ、こんな感じだった」

 桃瀬は手に持っていたリュックをそっと足元に置き、ポケットに入れてるメモ帳を取り出して、手早くサラサラとなにかを描きだした。

(ああ、はじまった――桃瀬の得意技。どれも同じ顔になるという、不気味なイラスト……)

「ももちん、期待はしてないからね」
「なんだよ周防、人が真面目に描いてやってるのに。ほらよ、できたぞ♪」

 押し付けるように渡されたメモ帳を見て、内心ため息をつき固まるしかない。

「やっぱりね。進化してると期待しなくて、本当によかった」
「なに言ってるんだ、すっげぇ似てるぞ」

 俺の言葉に、桃瀬はムッとした。だってこの絵じゃ、しょうがない。頭と目が異常に大きい上に、手が長いのに足が極端に短くなっているこの絵は、どこから見ても人間に見えないのだから。

「太郎! ちょっとおいで!」

 診察室から廊下に顔を出して、太郎を呼びつけてから肩をすくめ、診察室の椅子に戻ったら、太郎がひょっこりと顔を出した。

「わんわん、用事はなんですか~?」

 寝ぼけ眼で現れた太郎が、俺の目の前にいる桃瀬に鋭い視線を送る。突然現れたイケメンに、どうやらおもしろくない様子だった。

「タケシ先生……誰、この人?」
「俺の親友の桃瀬。あのさ、この顔に見覚えある?」

 手渡したメモ帳を差し出し太郎に見せると、腹を抱えて笑いだした。

「なっなんだよ、これ! こんな人間がいたら今頃、テレビに出まくってるだろ! どう見たって、宇宙人じゃないか!」
「悪いが太郎、俺はこの絵を見てピンときたんだ。たぶんこのコは、おまえの妹だ。よく見ると、どことなく雰囲気が似ているからな」

 長年桃瀬と付き合って、ずっと彼の描く絵を見ているゆえに、想像力がめっちゃ鍛えられた。

「タケシ先生、この絵を描いたのはもしかして――」

 俺は無言で、桃瀬を指差してやった。

「この人が描いたのか!? なんか意外かも……」

 ゲーッという表情を浮かべた太郎を、桃瀬はショックな表情を浮かべ、縋るようなまなざしで俺を眺めた。雲行きが悪そうな居心地を感じたので、ここは華麗に話題転換してやる。

「桃瀬紹介するね。コイツは病院前でわざわざ倒れてきた、面倒くさい患者なの。しかも自分の素性を、明かしてくれなくてさ。なので俺が適当に名前をつけたんだよ」

 本当に面倒くさいヤツをアピールすべく、丁寧な紹介をしてやった。

「周防、大丈夫なのか? 防犯上のこととか……いろいろさ」

 俺の紹介に、考えることがあったのだろう。桃瀬は心配そうな顔で、わざわざ訊ねる。その優しさを目の当たりにして、思わずほほ笑んでしまった。

「なんとかね。世間一般常識がなさ過ぎて、躾るのにちょっとだけ、てこずっているけど」
「……世間一般常識がない? おまえいくつなんだ?」
「一応、これでも大学生だけど……」
「えっ? 高校生じゃなく?」

 意外そうな目をして太郎を見た桃瀬に、内心クスッと笑ってしまう。

「なんだよその目は! ああ、どうせ俺は一般常識がないお子様ですよ」

 桃瀬と自分を比べるな。比べるレベルじゃないことくらい、見ただけでわかるだろうよ。

「今まで俺がなにを聞いても、コイツは素性を明かさなかったのに、さすがは桃瀬だな。ほら太郎、着替えだってさ」

 呆れながら女のコが持ってきたリュックを太郎に手渡すと、その腕で俺の体を荷物ごと引き寄せ、いきなりホールドされてしまった。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

監禁した高校生をめちゃくちゃにする話

てけてとん
BL
気に入ったイケメン君を監禁してめちゃくちゃにする話です。

監禁小屋でイかされ続ける話

てけてとん
BL
友人に騙されて盗みの手助けをした気弱な主人公が、怖い人たちに捕まってイかされ続けます

浮気をしたら、わんこ系彼氏に腹の中を散々洗われた話。

丹砂 (あかさ)
BL
ストーリーなしです! エロ特化の短編としてお読み下さい…。 大切な事なのでもう一度。 エロ特化です! **************************************** 『腸内洗浄』『玩具責め』『お仕置き』 性欲に忠実でモラルが低い恋人に、浮気のお仕置きをするお話しです。 キャプションで危ないな、と思った方はそっと見なかった事にして下さい…。

【エロ好き集まれ】【R18】調教モノ・責めモノ・SMモノ 短編集

天災
BL
 BLのエロ好きの皆さま方のためのものです。 ※R18 ※エロあり ※調教あり ※責めあり ※SMあり

嫌がる繊細くんを連続絶頂させる話

てけてとん
BL
同じクラスの人気者な繊細くんの弱みにつけこんで何度も絶頂させる話です。結構鬼畜です。長すぎたので2話に分割しています。

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

無理やりお仕置きされちゃうsubの話(短編集)

みたらし団子
BL
Dom/subユニバース ★が多くなるほどえろ重視の作品になっていきます。 ぼちぼち更新

処理中です...