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Love too late:防戦

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 くつろぐことのできる自宅にいるのに、まったく気が抜けない。ギラギラした目で見つめてくる太郎の視線が、俺を欲しいと言ってるからなんだけど。

 とにかく今夜は安心して寝られるように、遅めに薬を渡した。目の前で薬を飲み干したのを確認をし、布団に入ってくるなとしつこく念押しして、一日の疲れをこれでもかと引きずりながら、よいしょっとベッドに横になる。

「どうやって頑固な太郎に、治療を受けさせればいいんだか」

 額に手をやり、いろいろ考えても思いつかない。医者として、俺の中にある使命感――早めに手を打ったほうが、太郎のためにもいいはず。それだけで生存率が、ぐんと上がる。

「いっそのこと、この身を提供――って、無理無理っ!」

 そこまでしてやる、義理もなければ愛情もない。迷案ですら思いつかなくて、軽い頭痛を抱えながら、なんとか就寝した。寝入りばながこんなだったので、疲れが相当溜まっていたのだろう。目覚まし時計が鳴るまで、しっかりと眠ることができたのに。

「ん~、目覚ましマジうっせー……」

 背中に伝わってくる、あたたかい太郎の存在。目覚ましの音を綺麗にかき消す声に、全身を一瞬で硬直させた。

「コラッ! なんでまた、勝手に寝室に入り込んでるんだよ!」

(太郎になにもされてないのが、せめてもの救いだ)

 慌てて起きあがり、自分の肩を抱きながらベッドの隅に移動して、しっかりと距離をとる。

「俺の定位置っていうか、居場所みたいな感じだから」

 顔を思いっきり引きつらせる俺に、太郎はじりじり這いつくばって、にじり寄ってきた。

「ふざけんな! なにが定位置だ……」

 さぁここで運命の選択だ。やってくる太郎に――。
 1ぶん殴る
 2引っ叩く
 3蹴っ飛ばす
 4黙って押し倒される

 まず4はあり得ない、阻止することが優先だから。

 とりあえず手っ取り早く右手を振りかぶって、思いきりぶん殴ろうとしたら、簡単に腕をとられてしまい、ぐいっと体を引き寄せられてしまった。振り上げた腕の勢いも見事に加算されていたので、拒否る間もなく太郎の体に向かって、バカみたいにみずから倒れこんでしまう。

 ――ヤバイっ!!

 肩をすくめながらぎゅっと両目をつぶったとき、右目尻に柔らかいなにかが、そっと触れた。そして耳に聞こえる、クスクスという笑い声……完全にバカにされている。

「おはよ、タケシ先生。寝顔もかわいかったけど、寝癖をつけたまま怒ってる姿も、何気にさいこーだよ」

 どうしてくれよう、ひしひしと沸き上がるこの怒り――。

「俺だけがタケシ先生の寝起きの姿を見られるのって、結構嬉しいんだ」

 太郎は俺の耳元で甘く囁き、一瞬顔を離してから、なぜか角度をつけてまた迫ってきた。そんな太郎に迷うことなく、両手で頬を挟み込み、勢いをつけてうりゃーっと頭突きをしてやる。

「痛っ! タケシ先生ってば、なんちゅー硬い頭してんだよ、ガチンっていったぞ」
「朝っぱらから、騒々しいんだよおまえは。どんなに甘い言葉を使っても、俺には通用しないからな」
「……なんで?」

 恨めしそうな顔して、頭をさすりながら聞いてきた。

「甘いものが好きじゃないからだ。聞いてるだけでも胸やけがする」

 眉間にシワを寄せ、心底嫌そうに言ったのに、太郎はなぜかゲラゲラ笑う。

「だったら、耐性をつければいいだけの話じゃん。食い続けたらいつかは、胸やけもしなくなるって」
「医者の不養生と、他人に言われたくないんでね。無茶はしない主義なんだ。悪いが俺のことは、さっさと諦めろ」

 俺は冷たく言い放ち、太郎を残して寝室をあとにした。

(――まったく、朝から既に疲労困憊だ……)

 洗面所で顔を洗い、鏡に映る自分を見る。頭頂部の寝癖が、ぴんとアンテナのように立っていて、物悲しさをこれでもかと引き立たせていた。
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