上 下
20 / 24
Love too late:防戦

しおりを挟む
 くつろぐことのできる自宅にいるのに、まったく気が抜けない。ギラギラした目で見つめてくる太郎の視線が、俺を欲しいと言ってるからなんだけど。

 とにかく今夜は安心して寝られるように、遅めに薬を渡した。目の前で薬を飲み干したのを確認をし、布団に入ってくるなとしつこく念押しして、一日の疲れをこれでもかと引きずりながら、よいしょっとベッドに横になる。

「どうやって頑固な太郎に、治療を受けさせればいいんだか」

 額に手をやり、いろいろ考えても思いつかない。医者として、俺の中にある使命感――早めに手を打ったほうが、太郎のためにもいいはず。それだけで生存率が、ぐんと上がる。

「いっそのこと、この身を提供――って、無理無理っ!」

 そこまでしてやる、義理もなければ愛情もない。迷案ですら思いつかなくて、軽い頭痛を抱えながら、なんとか就寝した。寝入りばながこんなだったので、疲れが相当溜まっていたのだろう。目覚まし時計が鳴るまで、しっかりと眠ることができたのに。

「ん~、目覚ましマジうっせー……」

 背中に伝わってくる、あたたかい太郎の存在。目覚ましの音を綺麗にかき消す声に、全身を一瞬で硬直させた。

「コラッ! なんでまた、勝手に寝室に入り込んでるんだよ!」

(太郎になにもされてないのが、せめてもの救いだ)

 慌てて起きあがり、自分の肩を抱きながらベッドの隅に移動して、しっかりと距離をとる。

「俺の定位置っていうか、居場所みたいな感じだから」

 顔を思いっきり引きつらせる俺に、太郎はじりじり這いつくばって、にじり寄ってきた。

「ふざけんな! なにが定位置だ……」

 さぁここで運命の選択だ。やってくる太郎に――。
 1ぶん殴る
 2引っ叩く
 3蹴っ飛ばす
 4黙って押し倒される

 まず4はあり得ない、阻止することが優先だから。

 とりあえず手っ取り早く右手を振りかぶって、思いきりぶん殴ろうとしたら、簡単に腕をとられてしまい、ぐいっと体を引き寄せられてしまった。振り上げた腕の勢いも見事に加算されていたので、拒否る間もなく太郎の体に向かって、バカみたいにみずから倒れこんでしまう。

 ――ヤバイっ!!

 肩をすくめながらぎゅっと両目をつぶったとき、右目尻に柔らかいなにかが、そっと触れた。そして耳に聞こえる、クスクスという笑い声……完全にバカにされている。

「おはよ、タケシ先生。寝顔もかわいかったけど、寝癖をつけたまま怒ってる姿も、何気にさいこーだよ」

 どうしてくれよう、ひしひしと沸き上がるこの怒り――。

「俺だけがタケシ先生の寝起きの姿を見られるのって、結構嬉しいんだ」

 太郎は俺の耳元で甘く囁き、一瞬顔を離してから、なぜか角度をつけてまた迫ってきた。そんな太郎に迷うことなく、両手で頬を挟み込み、勢いをつけてうりゃーっと頭突きをしてやる。

「痛っ! タケシ先生ってば、なんちゅー硬い頭してんだよ、ガチンっていったぞ」
「朝っぱらから、騒々しいんだよおまえは。どんなに甘い言葉を使っても、俺には通用しないからな」
「……なんで?」

 恨めしそうな顔して、頭をさすりながら聞いてきた。

「甘いものが好きじゃないからだ。聞いてるだけでも胸やけがする」

 眉間にシワを寄せ、心底嫌そうに言ったのに、太郎はなぜかゲラゲラ笑う。

「だったら、耐性をつければいいだけの話じゃん。食い続けたらいつかは、胸やけもしなくなるって」
「医者の不養生と、他人に言われたくないんでね。無茶はしない主義なんだ。悪いが俺のことは、さっさと諦めろ」

 俺は冷たく言い放ち、太郎を残して寝室をあとにした。

(――まったく、朝から既に疲労困憊だ……)

 洗面所で顔を洗い、鏡に映る自分を見る。頭頂部の寝癖が、ぴんとアンテナのように立っていて、物悲しさをこれでもかと引き立たせていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので

こじらせた処女
BL
 大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。  とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

友達が僕の股間を枕にしてくるので困る

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
僕の股間枕、キンタマクラ。なんか人をダメにする枕で気持ちいいらしい。

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

イケメン大学生にナンパされているようですが、どうやらただのナンパ男ではないようです

市川パナ
BL
会社帰り、突然声をかけてきたイケメン大学生。断ろうにもうまくいかず……

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

処理中です...