5 / 22
Love too late:壊したくない距離感
5
しおりを挟む
***
昼休みおこなわれた、クラス対抗のバスケを見学していたら、他のクラスのヤツにも、気さくに声をかけてもらえた。
「桃瀬って運動神経抜群なのに、どうして部活、入ってないんだ?」
授業が無事に終わり、帰る方向が同じこともあって、バス停でふたり並んで待ちぼうけをしている。
「ん~、家でひとりの時間を満喫したいから」
桃瀬はカバンから本を取り出し、メガネをかけて読みはじめた。
学校では常に誰かと一緒にいて、ニコニコ笑っている桃瀬。いつも誰かといたら、ひとりになりたい時間が欲しくなるのが、容易に想像ついた。
そんな俺は、学院で誰ともつるむことがなかったのもあり、こうして桃瀬といるのが不思議な気分。まるで、昔からの友達みたいな感覚だった。
「桃瀬は本、好きなんだ?」
彼には変に気を遣うことなく、気軽に質問もできてしまう。
「ああ、周防はなにか読まないの?」
「本を読む暇があったら、単語のひとつでも覚えろって、母親が煩くてね。塾を二つ掛け持ちさせられて、毎日ヒーヒーだよ」
父親の経営している病院を継がせようと、必死に教育ママをしている母親。反抗するのも面倒くさいので、大人しく言うことをきいている。
「ウチは、姉ちゃんが煩くてさ。本ばかり読んでいるから成績が落ちてるって、怒鳴り散らしてくるんだ。周防が通ってる塾って、良さげな感じ?」
本から視線を俺に向けた桃瀬は、眉間にシワを寄せながら訊ねた。
「ああ。能力別にクラスが分かれていて、授業も丁寧に教えてくれる」
「行きたくないんだけど、このまま成績が下がるのも困っちゃうから、塾を探しているんだ」
やれやれといった感じで肩を竦め、苦笑いする桃瀬。お互い大学受験を控えた身だからこそ、大変なのは変わりないってことか。
「じゃあ塾の案内、貰ってきてやるよ。二つの内、自分に合いそうなところに申し込めばいいさ」
「サンキュー、助かる」
桃瀬はひとつため息をつき、視線を本に戻す。熱心に読むなと思い、じっと端正な横顔を見つめていたら、戻したばかりの視線を、なぜか上目遣いで向こう側にあるバス停に向けた。
(――気になるものでも、なにかあるのか?)
興味に惹かれ、桃瀬の視線の先を辿ると、有名私立中学の学生が数人、バスを待っていた。その中でも目鼻立ちの整った、清楚でキレイな感じの男子中学生が目に留まる。
一瞬、女子かと思うような容姿をしている美少年――ふわふわの茶色い猫っ毛が、ふっくらした頬にかかっていて、大きな瞳をなぜか落ち着きなく、キョロキョロさせた。
じっと見ているこっちと視線が合うと、男子中学生は慌てて視線を逸らす。長い睫が影を作って、愁いを帯びた瞳を際立たせている感じに見てとれた。
(確か男子だけの中学だから、飢えた先輩に狙われる、子羊ちゃんキャラみたいな感じだったりして?)
そんなことを考えた自分がキモくなり、視線を隣の桃瀬に戻すと、まだ正面を見つめたままだった。
飢えた野獣の瞳にも見えるまなざしに心当たりのあった俺は、慌てて声をかける。
「桃瀬、おまえ――」
「んあ? どうした?」
狼狽えた俺の声に反応した桃瀬は、メガネのフレームをあげながら、不思議そうな顔でこっちを見た。
「ぁあ、あのさ今度おもしろそうな本、貸してほしいと思って」
知りたいけど、わかりたくないかも。桃瀬が同性のことを好きかどうかなんて、そんな恐ろしいこと。
残念なことに向こう側のバス停には、異性がひとりもいなくて、桃瀬があの中の誰かに心惹かれている事実が、見た目でわかってしまった。
「ジャンルは、どんなの読んでみたいんだ?」
メガネの奥の瞳を細め、嬉しそうに訊ねてくる桃瀬。
なんてもったいない――イケメンで性格も良くて人気者のコイツなら、どんな女子でも手に入るというのに。まじないをしても、好きな相手がいるのなら効かないハズだ。
「おい周防、俺の話をちゃんと聞いてる?」
端正な顔が寄せられ、目の前に迫った。切れ長で綺麗な二重の瞳にじっと見つめられて、一瞬吸い込まれそうな錯覚に陥る。
メガネのレンズに映る、赤面して困った顔の自分。その気のない俺でもドキドキさせる桃瀬の美貌って、どんだけすごいんだ。
(――ってことは女子だけじゃなく、男子にも有効ってことだよな)
「……桃瀬のオススメにまかせる」
「そっか、おまかせね。楽しみにしてろよな」
桃瀬は俺の言葉に嬉しそうな表情を浮かべ、白い歯を見せて爽やかに笑う。
こんな顔で迫られたら、断ることができるだろうか? 迫られるということは、つまり――。
「ゲッ!?」
「周防、さっきからどうしたんだ、大丈夫か? 顔が赤くなってる」
「な、なんでもないって」
一瞬、脳裏を過ぎった桃瀬と自分の姿に、赤面せずにはいられない。
桃瀬はあたふたする俺を心配そうな面持ちで覗き込んでから、オデコに手を当てた。その手は気持ちいいと感じてしまうくらい、ヒヤリとしたもので、自分の体温があがっているのが、嫌というほどわかってしまう状態だった。
「悪かったな。編入初日にあちこち連れまわして、無理させちゃったかも。少し熱がある」
「大丈夫だって。俺って人より体温が高いから」
「そうなのか?」
俺のオデコに当てていた手を、自分のオデコに当てて比較する桃瀬。
「周防が言ってくれた、俺のおかげで学園に早く馴染めそうって言葉が、すっげぇ嬉しくってさ。俺って相手の気持ちを無視して、ついお節介焼いちゃうから、迷惑だったら言ってくれ」
「迷惑なんて、全然そんなことない。いろんなヤツに引き合わせてくれて、むしろ感謝しているし」
あー、ビックリした。桃瀬の美貌に一瞬やられて、無駄にドキドキしてしまった。
「そっか。あ、バスが来たぞ。乗ろうぜ」
手早く本とメガネをカバンにしまうと、お節介という言葉を実践すべく、後ろから強引な力で俺を押す。
「桃瀬?」
「とにかく、席が空いてたら座れよな。周防、疲れてるだろうから」
いらない気遣いに苦笑いして、小さな声で礼を言ってから、座席に着かせてもらった。
(ホント、無駄にお節介焼きなんだから――)
愛想笑いのひとつもうまくできない俺は桃瀬に向かって、なんとかほほ笑んでみる。それを見て、桃瀬も同じように笑った。
「なんか周防とは、昔からの友達みたいな感じがする、不思議だな。一緒にいて楽に感じる、どうしてかな?」
「あ、俺もさっき同じこと思った。スムーズに会話が弾むからさ。初めて逢ったばかりなのに」
疑問に思っていたことを口にすると、桃瀬はふわりと柔らかく笑う。それが心の底からといった感じで、俺まで嬉しくなってしまった。
「周防、俺ってこんなヤツだけど、末永く仲良くしてくれよな!」
「ああ、ヨロシク」
生まれたばかりの友情を確かめ合った俺たちを乗せて、バスは目的地へと発車する。バスに揺られながらかわす俺たちの会話は、途切れることがなかったのだった。
昼休みおこなわれた、クラス対抗のバスケを見学していたら、他のクラスのヤツにも、気さくに声をかけてもらえた。
「桃瀬って運動神経抜群なのに、どうして部活、入ってないんだ?」
授業が無事に終わり、帰る方向が同じこともあって、バス停でふたり並んで待ちぼうけをしている。
「ん~、家でひとりの時間を満喫したいから」
桃瀬はカバンから本を取り出し、メガネをかけて読みはじめた。
学校では常に誰かと一緒にいて、ニコニコ笑っている桃瀬。いつも誰かといたら、ひとりになりたい時間が欲しくなるのが、容易に想像ついた。
そんな俺は、学院で誰ともつるむことがなかったのもあり、こうして桃瀬といるのが不思議な気分。まるで、昔からの友達みたいな感覚だった。
「桃瀬は本、好きなんだ?」
彼には変に気を遣うことなく、気軽に質問もできてしまう。
「ああ、周防はなにか読まないの?」
「本を読む暇があったら、単語のひとつでも覚えろって、母親が煩くてね。塾を二つ掛け持ちさせられて、毎日ヒーヒーだよ」
父親の経営している病院を継がせようと、必死に教育ママをしている母親。反抗するのも面倒くさいので、大人しく言うことをきいている。
「ウチは、姉ちゃんが煩くてさ。本ばかり読んでいるから成績が落ちてるって、怒鳴り散らしてくるんだ。周防が通ってる塾って、良さげな感じ?」
本から視線を俺に向けた桃瀬は、眉間にシワを寄せながら訊ねた。
「ああ。能力別にクラスが分かれていて、授業も丁寧に教えてくれる」
「行きたくないんだけど、このまま成績が下がるのも困っちゃうから、塾を探しているんだ」
やれやれといった感じで肩を竦め、苦笑いする桃瀬。お互い大学受験を控えた身だからこそ、大変なのは変わりないってことか。
「じゃあ塾の案内、貰ってきてやるよ。二つの内、自分に合いそうなところに申し込めばいいさ」
「サンキュー、助かる」
桃瀬はひとつため息をつき、視線を本に戻す。熱心に読むなと思い、じっと端正な横顔を見つめていたら、戻したばかりの視線を、なぜか上目遣いで向こう側にあるバス停に向けた。
(――気になるものでも、なにかあるのか?)
興味に惹かれ、桃瀬の視線の先を辿ると、有名私立中学の学生が数人、バスを待っていた。その中でも目鼻立ちの整った、清楚でキレイな感じの男子中学生が目に留まる。
一瞬、女子かと思うような容姿をしている美少年――ふわふわの茶色い猫っ毛が、ふっくらした頬にかかっていて、大きな瞳をなぜか落ち着きなく、キョロキョロさせた。
じっと見ているこっちと視線が合うと、男子中学生は慌てて視線を逸らす。長い睫が影を作って、愁いを帯びた瞳を際立たせている感じに見てとれた。
(確か男子だけの中学だから、飢えた先輩に狙われる、子羊ちゃんキャラみたいな感じだったりして?)
そんなことを考えた自分がキモくなり、視線を隣の桃瀬に戻すと、まだ正面を見つめたままだった。
飢えた野獣の瞳にも見えるまなざしに心当たりのあった俺は、慌てて声をかける。
「桃瀬、おまえ――」
「んあ? どうした?」
狼狽えた俺の声に反応した桃瀬は、メガネのフレームをあげながら、不思議そうな顔でこっちを見た。
「ぁあ、あのさ今度おもしろそうな本、貸してほしいと思って」
知りたいけど、わかりたくないかも。桃瀬が同性のことを好きかどうかなんて、そんな恐ろしいこと。
残念なことに向こう側のバス停には、異性がひとりもいなくて、桃瀬があの中の誰かに心惹かれている事実が、見た目でわかってしまった。
「ジャンルは、どんなの読んでみたいんだ?」
メガネの奥の瞳を細め、嬉しそうに訊ねてくる桃瀬。
なんてもったいない――イケメンで性格も良くて人気者のコイツなら、どんな女子でも手に入るというのに。まじないをしても、好きな相手がいるのなら効かないハズだ。
「おい周防、俺の話をちゃんと聞いてる?」
端正な顔が寄せられ、目の前に迫った。切れ長で綺麗な二重の瞳にじっと見つめられて、一瞬吸い込まれそうな錯覚に陥る。
メガネのレンズに映る、赤面して困った顔の自分。その気のない俺でもドキドキさせる桃瀬の美貌って、どんだけすごいんだ。
(――ってことは女子だけじゃなく、男子にも有効ってことだよな)
「……桃瀬のオススメにまかせる」
「そっか、おまかせね。楽しみにしてろよな」
桃瀬は俺の言葉に嬉しそうな表情を浮かべ、白い歯を見せて爽やかに笑う。
こんな顔で迫られたら、断ることができるだろうか? 迫られるということは、つまり――。
「ゲッ!?」
「周防、さっきからどうしたんだ、大丈夫か? 顔が赤くなってる」
「な、なんでもないって」
一瞬、脳裏を過ぎった桃瀬と自分の姿に、赤面せずにはいられない。
桃瀬はあたふたする俺を心配そうな面持ちで覗き込んでから、オデコに手を当てた。その手は気持ちいいと感じてしまうくらい、ヒヤリとしたもので、自分の体温があがっているのが、嫌というほどわかってしまう状態だった。
「悪かったな。編入初日にあちこち連れまわして、無理させちゃったかも。少し熱がある」
「大丈夫だって。俺って人より体温が高いから」
「そうなのか?」
俺のオデコに当てていた手を、自分のオデコに当てて比較する桃瀬。
「周防が言ってくれた、俺のおかげで学園に早く馴染めそうって言葉が、すっげぇ嬉しくってさ。俺って相手の気持ちを無視して、ついお節介焼いちゃうから、迷惑だったら言ってくれ」
「迷惑なんて、全然そんなことない。いろんなヤツに引き合わせてくれて、むしろ感謝しているし」
あー、ビックリした。桃瀬の美貌に一瞬やられて、無駄にドキドキしてしまった。
「そっか。あ、バスが来たぞ。乗ろうぜ」
手早く本とメガネをカバンにしまうと、お節介という言葉を実践すべく、後ろから強引な力で俺を押す。
「桃瀬?」
「とにかく、席が空いてたら座れよな。周防、疲れてるだろうから」
いらない気遣いに苦笑いして、小さな声で礼を言ってから、座席に着かせてもらった。
(ホント、無駄にお節介焼きなんだから――)
愛想笑いのひとつもうまくできない俺は桃瀬に向かって、なんとかほほ笑んでみる。それを見て、桃瀬も同じように笑った。
「なんか周防とは、昔からの友達みたいな感じがする、不思議だな。一緒にいて楽に感じる、どうしてかな?」
「あ、俺もさっき同じこと思った。スムーズに会話が弾むからさ。初めて逢ったばかりなのに」
疑問に思っていたことを口にすると、桃瀬はふわりと柔らかく笑う。それが心の底からといった感じで、俺まで嬉しくなってしまった。
「周防、俺ってこんなヤツだけど、末永く仲良くしてくれよな!」
「ああ、ヨロシク」
生まれたばかりの友情を確かめ合った俺たちを乗せて、バスは目的地へと発車する。バスに揺られながらかわす俺たちの会話は、途切れることがなかったのだった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
公開凌辱される話まとめ
たみしげ
BL
BLすけべ小説です。
・性奴隷を飼う街
元敵兵を性奴隷として飼っている街の話です。
・玩具でアナルを焦らされる話
猫じゃらし型の玩具を開発済アナルに挿れられて啼かされる話です。
浮気をしたら、わんこ系彼氏に腹の中を散々洗われた話。
丹砂 (あかさ)
BL
ストーリーなしです!
エロ特化の短編としてお読み下さい…。
大切な事なのでもう一度。
エロ特化です!
****************************************
『腸内洗浄』『玩具責め』『お仕置き』
性欲に忠実でモラルが低い恋人に、浮気のお仕置きをするお話しです。
キャプションで危ないな、と思った方はそっと見なかった事にして下さい…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる