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Love too late:壊したくない距離感
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「周防武です、ヨロシクお願いします」
系列の高校を、編入という形で転校した。通う学校の名前が学院から学園になった程度の変化。しかし言えるのは楽園にならないだろうという事実だった。どこに行ってもついて回る成績争いに、ほとほと嫌気がさしていた。
学校でも塾でも互いを牽制しあう姿を見るたびに、そんな暇があるのなら、単語のひとつでも覚えればいいのにと、遠くから白い目で眺めていた学院時代。学園では、果たしてどうなるであろうか。
「校内の案内は、委員長の桃瀬が面倒見てくれるから。桃瀬、頼んだぞ!」
自身の挨拶が終わると、担任が後ろの席にいる目鼻立ちのはっきりした生徒に、校内の案内をわざわざ頼んでくれた。
「はーい。周防、授業が終わったら案内するから、ヨロシクな!」
サラサラの真っ直ぐな黒髪を揺らしながら、気さくなイケメン桃瀬と呼ばれた生徒が、白い歯を見せながら笑いかける。
クラス委員なんて面倒なことをわざわざするなんて、お人よしなのかバカなのか――はたまた、ただの目立ちたがり屋なのか。
内心苦笑しながら、指定された席に着いた。
そして授業が終わり、クラス委員の桃瀬の席にみずから赴く。俺の姿を見た桃瀬は、どこか楽しげに口を開いた。
「ここの造りは、基本的に学院と変わらないって噂で聞いているけど、実際はどうだ?」
「ああ、大差ない。おかげで迷子にならずに済みそうだ」
笑いながら答える俺を、じっと見つめた桃瀬。その視線を、不思議に思って首を傾げた。
「なに?」
「あ、その。なんとなくなんだけど、周防のその右目の下のホクロ、色っぽいなと思って」
少しだけ頬を赤く染めながら、ワケのわからないことを言われても、正直困ってしまう。
「俺自身はこのホクロ、あまり好きじゃないんだけど」
人相占いでも、あまりいいことが書かれていなかった記憶がある。レーザーで取ることもできるが、そうまでして運勢を変える気にもなれなかった。
「悪い、気にしてるトコ突っついて。それがあるのとないのじゃ、印象が変わるなぁって思ったんだ。もちろん俺の中では、良い方の印象だぞ」
「そんな感じなんだ、ふぅん」
ホクロ以外、あまり見た目を気にしたことがなかったから、こういうふうに感想を告げられ、なんと答えていいのやら。どこか、くすぐったいような感じの妙な印象を受けた。
「あとさ……」
「なんだよ?」
桃瀬はどこか言いにくそうな表情を浮かべつつ、窺うようにこちらを見る。
「周防って、グレてるのか?」
告げられた言葉の意味がわからず、ぽかんと口が開けっ放しになってしまった。
「そういうふうに見える理由を、逆に教えてくれ」
苦笑いしながら訊ねてみると、桃瀬は慌てふためき、ますます顔を赤くさせ、うわぁと叫んで頭を抱える。
委員長をしているのに、しっかりしているようで、全然ダメなヤツじゃないか。
「ごっ、ゴメンな! おまえのその髪色が結構茶色だしさ、態度もつっけんどんに感じたから、そうなのかなって勝手に思ってしまった」
椅子から腰をあげて、ペコペコ頭を下げる姿に、自然と笑みが溢れてしまう。
「髪が茶色なのは、小さい頃に水泳教室に通っていたせいかな。塩素のせいで茶色になったんだと思う。つっけんどんな態度なのは転校初日から、馴れなれしいヤツなんていないだろ普通」
「そうか? 自分の印象をよくするのに、愛想笑いのひとつくらいはするもんじゃねぇの?」
言いながら桃瀬は頬をポリポリと掻き、視線をあちこちに彷徨わせる。
「無駄に深く考え込むなって。俺はただの人見知りなだけだから」
変な委員長だなぁと、自分よりも少しだけ背の低い、桃瀬を眺めていたとき。
「あっ、桃瀬くーん!」
廊下の向こう側から、長い髪を背中までなびかせた女子が手を振って、こっちに向かってくる。
「なに?」
「現国のノート、貸してほしいんだけど」
「ああ、さっきクラスの女子に貸した。戻ってきてからでいい?」
俺が桃瀬の席に行く前に、女子が集団で桃瀬を取り囲んでノートを寄こせと、せがんだのを目にしていた。
「わかった、あとでね!」
そう言って髪の長い女子は、あっという間に消えていった。ふたりでそれを見送り、教室を出て廊下を歩きはじめたら。
「おーい、桃瀬ぇ!」
直ぐ傍にある理科室の扉から、ひょっこり顔を出した女子が、いきなり声をかけた。
「ぁあ? なに?」
「英語のノート、ちょっと貸してよ」
「無理、次の授業で使うから」
桃瀬は冷たくあしらうように言って、面倒くさそうな表情を浮かべると、その場から逃げるように歩き出す。
「周防武です、ヨロシクお願いします」
系列の高校を、編入という形で転校した。通う学校の名前が学院から学園になった程度の変化。しかし言えるのは楽園にならないだろうという事実だった。どこに行ってもついて回る成績争いに、ほとほと嫌気がさしていた。
学校でも塾でも互いを牽制しあう姿を見るたびに、そんな暇があるのなら、単語のひとつでも覚えればいいのにと、遠くから白い目で眺めていた学院時代。学園では、果たしてどうなるであろうか。
「校内の案内は、委員長の桃瀬が面倒見てくれるから。桃瀬、頼んだぞ!」
自身の挨拶が終わると、担任が後ろの席にいる目鼻立ちのはっきりした生徒に、校内の案内をわざわざ頼んでくれた。
「はーい。周防、授業が終わったら案内するから、ヨロシクな!」
サラサラの真っ直ぐな黒髪を揺らしながら、気さくなイケメン桃瀬と呼ばれた生徒が、白い歯を見せながら笑いかける。
クラス委員なんて面倒なことをわざわざするなんて、お人よしなのかバカなのか――はたまた、ただの目立ちたがり屋なのか。
内心苦笑しながら、指定された席に着いた。
そして授業が終わり、クラス委員の桃瀬の席にみずから赴く。俺の姿を見た桃瀬は、どこか楽しげに口を開いた。
「ここの造りは、基本的に学院と変わらないって噂で聞いているけど、実際はどうだ?」
「ああ、大差ない。おかげで迷子にならずに済みそうだ」
笑いながら答える俺を、じっと見つめた桃瀬。その視線を、不思議に思って首を傾げた。
「なに?」
「あ、その。なんとなくなんだけど、周防のその右目の下のホクロ、色っぽいなと思って」
少しだけ頬を赤く染めながら、ワケのわからないことを言われても、正直困ってしまう。
「俺自身はこのホクロ、あまり好きじゃないんだけど」
人相占いでも、あまりいいことが書かれていなかった記憶がある。レーザーで取ることもできるが、そうまでして運勢を変える気にもなれなかった。
「悪い、気にしてるトコ突っついて。それがあるのとないのじゃ、印象が変わるなぁって思ったんだ。もちろん俺の中では、良い方の印象だぞ」
「そんな感じなんだ、ふぅん」
ホクロ以外、あまり見た目を気にしたことがなかったから、こういうふうに感想を告げられ、なんと答えていいのやら。どこか、くすぐったいような感じの妙な印象を受けた。
「あとさ……」
「なんだよ?」
桃瀬はどこか言いにくそうな表情を浮かべつつ、窺うようにこちらを見る。
「周防って、グレてるのか?」
告げられた言葉の意味がわからず、ぽかんと口が開けっ放しになってしまった。
「そういうふうに見える理由を、逆に教えてくれ」
苦笑いしながら訊ねてみると、桃瀬は慌てふためき、ますます顔を赤くさせ、うわぁと叫んで頭を抱える。
委員長をしているのに、しっかりしているようで、全然ダメなヤツじゃないか。
「ごっ、ゴメンな! おまえのその髪色が結構茶色だしさ、態度もつっけんどんに感じたから、そうなのかなって勝手に思ってしまった」
椅子から腰をあげて、ペコペコ頭を下げる姿に、自然と笑みが溢れてしまう。
「髪が茶色なのは、小さい頃に水泳教室に通っていたせいかな。塩素のせいで茶色になったんだと思う。つっけんどんな態度なのは転校初日から、馴れなれしいヤツなんていないだろ普通」
「そうか? 自分の印象をよくするのに、愛想笑いのひとつくらいはするもんじゃねぇの?」
言いながら桃瀬は頬をポリポリと掻き、視線をあちこちに彷徨わせる。
「無駄に深く考え込むなって。俺はただの人見知りなだけだから」
変な委員長だなぁと、自分よりも少しだけ背の低い、桃瀬を眺めていたとき。
「あっ、桃瀬くーん!」
廊下の向こう側から、長い髪を背中までなびかせた女子が手を振って、こっちに向かってくる。
「なに?」
「現国のノート、貸してほしいんだけど」
「ああ、さっきクラスの女子に貸した。戻ってきてからでいい?」
俺が桃瀬の席に行く前に、女子が集団で桃瀬を取り囲んでノートを寄こせと、せがんだのを目にしていた。
「わかった、あとでね!」
そう言って髪の長い女子は、あっという間に消えていった。ふたりでそれを見送り、教室を出て廊下を歩きはじめたら。
「おーい、桃瀬ぇ!」
直ぐ傍にある理科室の扉から、ひょっこり顔を出した女子が、いきなり声をかけた。
「ぁあ? なに?」
「英語のノート、ちょっと貸してよ」
「無理、次の授業で使うから」
桃瀬は冷たくあしらうように言って、面倒くさそうな表情を浮かべると、その場から逃げるように歩き出す。
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