こんなに好きなのに伝わらないのなら――

相沢蒼依

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特別番外編【Voice】

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「……箱崎、変なことを聞いてもいい?」

 自身の気持ちを噛みしめていたところで、どこか言いにくそうに黒瀬が俺に話しかけた。

「変なこと?」

「うん。あのね、若林先輩と付き合うことになったきっかけは、何かなぁと思って。ふたりが付き合うなんて意外だったし」

「黒瀬は知ってるだろ、俺が声フェチだってこと」

 人差し指をくちびるに押し当てながら告げると、黒瀬は黙ったまま静かに頷く。俺のことをバカにせず、真摯に受け止めてくれる態度に、ありがたみを感じながら説明した。

「若林先輩、誰も真似できないような声を出すんだ」

「それって――」

「ヤってるとき限定だけどね。それのおかげで胸に空いた穴が、一気に塞がっちゃった」

「あ……」

 黒瀬の面持ちが曇りがちになったのを見て、腹に軽くグーパンしてやった。

「そのきっかけを作ってくれた黒瀬に、俺は感謝してるんだけどな」

「箱崎……」

 椅子に座った俺を、黒瀬は大きな瞳を細めながら見つめる。さっきまでの憂うつな感じは消えていた。

「それで、俺にジェラシー抱いて無駄に嫉妬しまくっていたのは、無事に解消されたみたいだな」

 黒瀬先輩と部室で話し合いをしたあの日、黒瀬は不機嫌丸出しで帰っていった。次の日にフォローを入れようとしたのだが、その日の黒瀬がどこかボーっとしていたので、あえて話をしなかった経緯がある。

「解消というか、なんというか――」

 いきなり頬を染め、落ち着きなく視線を逸らす黒瀬の行動で、俺がフォローする前に黒瀬先輩がうまいことやったのがわかった。

「黒瀬先輩が俺を相手するはずないのに。黒瀬にめっちゃ惚れてるのにさ」

「そんなこと! ある、かな?」

「どうしてそこで、自信を失くすんだ。黒瀬先輩の視線の先には、いつも黒瀬がいるっていうのに」

 部活をしている最中、体育館の観客席を見上げて、さりげなく黒瀬を捜す姿を何度も目撃していた。

「そんなに僕のこと、兄貴は見てるの?」

 自信なさげに躰を縮こめて訊ねる黒瀬に、笑いながら答える。

「ああ。黒瀬を見てるだけじゃなくて、話もたくさん出てくる。『俺の辰之はしっかりしてるから~』なんて、いろんな自慢話しまくりだよ」

「自慢話なんて、僕のどこが自慢になるのやら……」

「そういう黒瀬も、黒瀬先輩の自慢話するクセに!」

 ニヤニヤしながら指摘した瞬間に、目の前にある顔がここ一番で真っ赤になった。口をぱくぱくさせてなにかを言いかけたが、ふっと息を飲む。

「黒瀬、どうした?」

「今の箱崎が無敵な気がしたんだ。反論するだけ、無駄な感じがしたからやめた」

「無敵なんて、そんなことないのに」

「なんていうか、箱崎変わったよね。吹っ切れたと表現したらいいかも」

 俺は若林先輩を好きになったから、猫を被る必要がなくなった。黒瀬への想いが吹っ切れたことに、繋がってるのかもしれないな。

「黒瀬が俺を無敵というなら、遠慮せずになんでも相談してくれよな。助けてやるよ」

 そう言って右手を差し出すと、俺よりも少しだけ小さな右手が力強くてのひらを掴んだ。

「僕も箱崎が困ったときは助けてあげる。よろしくね!」

 以前と変わらぬ友達関係なのに、不思議と友情が深まったのは気のせいじゃない。

「よろしく!」

 若林先輩との深い関係よりも早く、黒瀬と友情を分かち合えたことは、俺にとって自信に繋がった。この調子で恋愛もうまくいけばいいなと思う、今日のこの頃だった。

☆ちなみに部室に置いてけぼりにした若林先輩について、きちんとパンツを取り替えて(部室のロッカーにあったのを使用!)身支度を整えた状態で床に放置した。そんな世話をしたせいで、愛情があふれてしまった勢いのままに、ノートの切れ端に『バカ林先輩の早漏!』とでっかく書いて、若林先輩のロッカーに貼りつけておいたのは、とてもいい思い出になったと思う!

♡お待たせいたしました。番外編第二弾は黒瀬兄弟のお話になります。お楽しみに!
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