こんなに好きなのに伝わらないのなら――

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
93 / 114
特別番外編【Voice】

14

しおりを挟む
「箱崎の視線から、俺に対する嫌悪が滲み出ているのに、それを感じるとなんとも言えない気持ちになっていったんだ」

「若林先輩の言ってる意味がよくわからないんですけど、嫌悪感が出てるのって俺だけじゃないと思いますよ」

 若林先輩の視野の狭さに思いっきり辟易しながら指摘したら、「そんなの知ってる」なんていうあっさりした返事をされた。

「じゃあ俺との違いはなんですかね?」

 得意げな顔で返答されてしまったせいで、俺の中にある我慢が刻々と限界に近づいていく。

「なんて言ったら伝わるんだろうな。ん~、誰よりも俺のことを最低最悪で嫌ってる感じ……」

「俺の感情が若林先輩に、間違いなく伝わっているようで嬉しいですー」

 表情に出るようにウンザリ顔を作り込み、棒読みで告げてやった。

「そうだよ、その塩対応がすげぇいいんだって!」

「は?」

 いきなりテンション爆上げした声色に思いっきりビビッて、逃げる感じで後退りしてしまった。マジで気持ち悪い。

「箱崎にそういう態度をとられると、背筋がゾクゾクするんだ」

 正直なところ返す言葉がない。というか見つからない。俺が若林先輩を嫌えば嫌うほど、悦ばせてしまっている事実に、めまいが止まらない。

 不意に黒瀬先輩のセリフが脳内を流れる。

『誰かに後ろ指をさされることが平気な人間は、まずいない。あえてその選択をする強さを持つ若林先輩が、俺としては羨ましいなって』

 打たれ強さがあるわけじゃなく、ドMの本性ゆえにあえて自分を追い込んでいたことを、今すぐにでも黒瀬先輩に伝えたかった。そして若林先輩に対する尊敬の念を消してもらいたい。

「なぁ箱崎、俺たち付き合わないか? どうせ黒瀬弟とはくっつけないんだしさ」

「お断りしますっ! 俺にだって選ぶ権利くらいあるでしょ」

「そうやって逃げられると、追いかけたくなるよな」

 背中を向けないように、じわじわ後退りを続ける。腕の力は若林先輩のほうが上。羽交い締めにされたら、一巻の終わりだ。死亡フラグしか未来が見えない。

「アンタは俺の趣味じゃない。まったく逆方向なんだよ、黒瀬を見ればわかるだろう?」

「だから?」

「それにキモイのは嫌なんだ、そっちの世界に俺を巻き込まないでくれ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

つまりは相思相愛

nano ひにゃ
BL
ご主人様にイかないように命令された僕はおもちゃの刺激にただ耐えるばかり。 限界まで耐えさせられた後、抱かれるのだが、それもまたしつこく、僕はもう僕でいられない。 とことん甘やかしたいご主人様は目的達成のために僕を追い詰めるだけの短い話です。 最初からR表現です、ご注意ください。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...