こんなに好きなのに伝わらないのなら――

相沢蒼依

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特別番外編【Voice】

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「辰之、いい加減に離れろって。そこに人がいるんだぞ。甘える姿を誰かに見せたいのか?」

 黒瀬先輩にバレてることに驚きながら、頭を低くして扉から顔を出した。

「すみません。忘れ物を取りに戻りまして……」

「なんだ、箱崎だったのか」

 黒瀬は黒瀬先輩から離れかけたのに、なぜだかふたたび抱きつく。タイミングの悪い、お邪魔虫な自分が嫌になってしまった。

「辰之、先に帰ってくれないか。箱崎と話があるんだ」

「僕がいちゃ駄目な内容なんだ?」

 黒瀬先輩から俺に視線を飛ばす黒瀬の目に、ズルいという嫉妬に満ちたものが滲み出ていた。

「黒瀬先輩、後日じゃダメですか?」

 黒瀬の機嫌をなんとかすべく後日を提案してみたのだが、黒瀬先輩は首を横に振る。

「バレー部のことでちょっとな。ほら、辰之早く帰れ!」

 問答無用な感じで黒瀬の背中を押して、無理やり部室から追い出す。唇を突き出しながら出て行く姿を見ながら、明日ちゃんとフォローしてあげなければと心に誓った。

「箱崎は辰之の前だと、思いっきり猫被ってるのな」

 黒瀬がしっかり帰ったことを確認後、扉を閉めて俺に話しかける。

「猫なんて被ってませんが……」

「バレーの試合で点差があって追い詰められたとき、メンバーが諦めモードになっても、おまえだけは最後までボールに食らいついていくだろ。人ってさ、本性がそういうときに出るよな」

 たった一歳の差しかないのに、誤魔化しを見逃さない黒瀬先輩の前では、隠し事ができない気がした。

「諦めが悪いって言いたいんですか?」

「若林先輩のことだ」

 ズバッと投げつけられた直球に、息を飲むのがやっとだった。黒瀬先輩の口から、若林先輩という名が出てくるとは思ってもいなかったため、瞳を瞬かせながら目の前にある顔を見つめる。

「辰之絡みで、若林先輩となにかあったのか?」

「えっと、その――」

(絶対に言えない。カッとなって若林先輩をヤりかけたなんて)

 困り果てて言葉を濁した俺を見たからか、優しい口調で語りかけてくれる。

「実は若林先輩に頼まれた。箱崎と話がしたいそうだ。LINEは既読スルーされるし、休み時間に顔を出しても逃げられるし、部活では避けられるの三点セットでさ! なんて愚痴られてる」

「黒瀬は関係ないんです。ただ単にあの人が苦手でして」

 頭を掻きながら弱り顔を決め込む俺に、黒瀬先輩は小さいため息をついた後に口を開く。

「俺さ、同性愛者になって、若林先輩はすごいなと思わされたことがあるんだ」

「…………」

 俺としては若林先輩を少しもすごいと思ったことがなかったので、黒瀬先輩のセリフが不思議でならなかった。黙ったまま、言葉の続きに耳を傾ける。
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