こんなに好きなのに伝わらないのなら――

相沢蒼依

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特別番外編【Voice】

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 黒瀬の意図を考えながら若林先輩のナカを解していくうちに、音声が別なものに変わった。さきほどまでの嫌がる声ではなく、甘さの中に切なさを含む淫靡な声が物置の中に響き渡る。

『あぁん、それ気持ちいぃっ! あっ兄貴が俺のぉっ、俺のをフェラしてくれるなんて…夢、みたいっンンっ』

 一緒にじゅぷじゅぷという音もハッキリ聞こえてきて、激しくフェラされているのが明らかだった。

『あっあっあ、宏斗兄さんんっ…もっと、もっとシて、俺のち〇ぽ美味しくしゃぶって!』

 黒瀬の積極的な声は、俺のモノを確実に変化させた。

『んぅっ、んっ、美味い…よ。辰之が感じてるのがわかる。イヤラしい汁がいっぱい出てる』

『ひゃぁん♡ それヤバいっ!』

 荒い息遣いと聞いたことのない黒瀬のエロい声で、痛いくらいに自身が反り勃つ。それは俺だけじゃなく、目の前にいる人物も同じだった。

「箱崎もうやめてくれぇ…これだったら殴られるほうが100倍マシだ」

「そんなこと言ってるくせに、しっかり勃起してるんですね」

「これはしょうがないだろ、辰之くんの声のせいだし」

『ああっ、あ、ああぁあ♡ お尻も触ってほしいっ…バイブを取ったときみたいにぃ、ッ……兄貴の指でごしごしされたい』

 鼻にかかるような甘ったるい黒瀬の声で、若林先輩のナカが締まる。

「おい、これだけ俺に屈辱的なことをしたんだ。もう許してくれよ」

 大声で俺に頼み込む若林先輩の声に被さるように、黒瀬先輩の声がした。

『それ、若林先輩にされて気持ちよかったから、俺にされたいだけだろ』

 苛立つ黒瀬先輩の気持ちと、俺の気持ちが見事にリンクする。ナカに挿れてる指先に、いやおうなしに力が入った。

「箱崎痛いって、マジで勘弁してくれよ」

 他にもわーわー喚く若林先輩の声にまじって、黒瀬先輩の焦れた声が続く。

『アイツと何度も寝てるんだろ。そのたびに辰之は若林先輩の手で、とことん感じさせられたに違いないって』

 嫉妬が滲み出る黒瀬先輩の声を滅多に聞くことができないんゆえに、俺の心に染み渡っていった。

『わっ、若林先輩にヤられたのは、音楽室のあのときだけだよ。選ばされたんだ、抱かれるかバイブを入れるかの二択で』

 今にも泣き出しそうな黒瀬のセリフで、若林先輩に視線を向けた。冷凍庫なみの冷たさを宿しているであろうそれに、目の前にある顔が恐怖に固まる。

「若林先輩、黒瀬にそんなことをしたんですか?」

 少し前にあった、休み時間のことを瞬時に思い出せた。お腹を押さえながら具合を悪くしていた黒瀬を、最初に介抱したのは俺だった。

「辰之くんをそのままヤるんじゃなく、二択させて選ばせただけいいだろ」

 困惑に満ちた若林先輩の言葉のあとに、黒瀬の落ち着いた声が嫌な静寂を破った。

『若林先輩に抱かれないようにするために、俺はバイブを入れることを選んだ。理由は兄貴以外に、この躰に触れられたくなかったからだよ』

 俺はスマホに手を伸ばし、画面をタップして音声をオフにした。

「は、箱崎……。も、やめてく――」

 言いながら俺の手の動きの先を見て、若林先輩は絶句した。

「若林先輩、好きでもないヤツにヤられる気持ちを、じっくりと味わってください」

「むむむむ無理だ、そんなもん挿いるわけないっ! どう見たってXLサイズだろ」

「だからなんだって言うんですか」

「絶対壊れる! 俺の尻があぁああ゛ぁあ゛~」

 激しく暴れる前に、腰を押し進めて突っ込んでやった。

「がああぁ、くるひぃ…たしけてぇ!」

 若林先輩は黒瀬の喘ぎ声とは似ても似つかない下品な声を出しながら、白濁を撒き散らしつつ、白目を剥いて失神してしまった。

 ちなみに俺のモノは、半分も挿入されていない。

「散々ひとりで騒いでしっかりイケるあたり、若林先輩らしいけど。やっぱりこんなことしなきゃよかった……」

 深いため息をついて自身を引き抜き、ポケットティッシュで汚れたところを丁寧に拭う。ついでに、頬を濡らす涙もゴシゴシ拭ってやった。あとは目についたブレザーの汚れを、適当に叩いて落としておく。

(これに懲りて、他人に変なことをしようとしないだろ。そこまで馬鹿な人じゃないと思いたい)

 スマホの中にある黒瀬の音声をしっかり削除し、体育館の物置をあとにした。
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