こんなに好きなのに伝わらないのなら――

相沢蒼依

文字の大きさ
上 下
76 / 114
兄貴の悦び

14

しおりを挟む
 図星をさされた兄貴は少しだけ唇を突き出し、面白くなさそうな表情をありありと浮かべて、そっぽを向いてしまった。僕の読みがことごとく当たってしまうことについて、こういうときは駄目だなぁと思わずにはいられない。

 兄弟喧嘩と恋人同士のケンカは、そもそも質が違う。しかも喧嘩したときは、決まって先に折れるのは兄貴だった。僕から修復したことがないゆえに、対処に困り果てる。

「怒らないでよ、宏斗兄さん」

「いつまでもそこに突っ立ってないで、座れば?」

 しょんぼりする僕に、兄貴の乾いた声がかけられた。素直にそれに従ったが、ひとり分のスペースを空けて座る。本当はもっとくっつきたかったけど、兄貴から漂う雰囲気を察して行動してみた。

(う~っ、もどかしい! こういうときはなにを話せばいいのか、全然わからないや。友達相手だったら適当に笑って誤魔化すとかできるのに、大好きな兄貴が相手じゃ、喋った分だけ自分の首を絞めるような気が激しくする。さっきだって妬いてる発言した兄貴に、思いっきり対抗しちゃったし……)

 首をもたげて足元を見ていると、膝に置いた手に兄貴の手が重ねられた。ぎゅっと強く握りしめるなり、横に小さく引っ張る。

 兄貴の握力なら、簡単に僕を引っ張って近づけることができるというのに、あえてそれをしないのはどうしてなのか。こっちの想像を超えることばかりする、兄貴の考えがまったく理解できない。

 恐るおそる隣を見ても兄貴の顔はそっぽを向いたまま、相変わらず僕を見ていなかった。だけど頬がほんのり赤くなっているだけじゃなく、耳まで赤く染まっていた。

 僕は迷わず兄貴の躰にしがみつく。掴まれた手を放り投げるという荒業つきで!

「辰之っ!」

「機嫌直してほしいな。どうすればいい?」

 僕が抱きついたことにより兄貴の長い前髪が乱れたので、手櫛で優しく整えながら問いかけた。こっちを向いた兄貴の面持ちは、最高潮に赤くなってる状態。

(きっと僕が潤んだ瞳の上目遣いで、ぐぐっと顔を寄せたことにより、兄貴はパニックになっているのかもしれない。ということにしておこう)

「辰之、ちょっと近いって。周りに変に思われる……」

「別に良くない? だって僕らは兄弟なんだし」

 実際は兄弟を超えた間柄だけどね。こういうときは兄弟っていうのも、便利なものだな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

処理中です...